― Safe Third Country Agreement(STCA)とBill C-12を整理する
米国最高裁は2026年、トランプ政権による一部の移民保護制度の終了や送還政策を支持する判断を示しました。この決定を受け、「米国からカナダへ向かう難民申請者が増えるのではないか」という報道が相次いでいます。
しかし、現在のカナダの難民制度は数年前とは大きく変わっています。
本記事では、その背景となるSafe Third Country Agreement(STCA)とBill C-12を時系列で整理しながら、今回のニュースがカナダの難民制度にどのような影響を与える可能性があるのかを解説します。
Safe Third Country Agreement(STCA)とは?
Safe Third Country Agreement(STCA)とは、カナダと米国との間で締結された難民協定です。
この協定は、
難民保護を求める人は、最初に到着した安全な国で難民申請を行うべき
という考え方に基づいています。
そのため、米国からカナダへ陸路で入国して難民申請を行う場合は、一定の例外を除き、原則として米国へ送還されます。
制度はどのように変わってきたのか
① 2004年:STCA発効
2004年にSTCAが発効した当初、この協定は正式な国境検問所(Port of Entry)のみに適用されていました。
そのため、Roxham Roadのような非公式な越境地点からカナダへ入国した場合にはSTCAが適用されず、カナダ国内で難民申請を行うことができました。
この制度上の違いから、多くの難民申請者がRoxham Roadを利用するようになりました。
② 2023年:追加議定書によりRoxham Roadルートが閉鎖
2023年3月、カナダと米国はSTCAのAdditional Protocol(追加議定書)に合意しました。
この改正により、
- 正式な国境検問所だけでなく、
- 非公式な越境地点から入国した場合にもSTCAが適用
されるようになりました。
その結果、Roxham Roadなどを利用した難民申請ルートは事実上閉鎖されました。
③ 2026年:Bill C-12によるさらなる厳格化
2026年3月にはBill C-12(Strengthening Canada’s Immigration System and Borders Act)が成立しました。
この法律では、
米国との陸路国境を正式な入国地点以外から越えて入国した人が、入国から14日以上経過して難民申請を行った場合、その申請は通常の難民審査(Refugee Protection Division:RPD)に付託されません。
代わりに、一定の場合にはPre-Removal Risk Assessment(PRRA)による審査の対象となります。
重要なのは、
Bill C-12はSTCA自体を変更した法律ではない
という点です。
つまり、
- 正式な国境検問所で難民申請する場合
- 非公式な越境後14日以内に難民申請する場合
については、従来どおりSTCAが適用され、例外に該当しない限り米国へ返還されます。

トランプ政権の送還強化は何を意味するのか
今回の米国最高裁判決により、TPS(Temporary Protected Status)などの保護を失う人が増える可能性があります。
その結果、一部の人がカナダへの移動を検討することは十分考えられます。
しかし、
- STCA
- 2023年の追加議定書
- Bill C-12
という制度変更により、現在は以前と比べてカナダで難民申請を行うことは大幅に難しくなっています。
そのため、
「トランプ政権が送還を強化する=カナダへの難民申請が急増する」
という単純な図式ではないことを理解する必要があります。
今後注目すべきポイント
今回のニュースで本当に注目すべきなのは、「難民申請者が増えるかどうか」だけではありません。
現在カナダでは、
米国は本当に”Safe Third Country(安全な第三国)”と言えるのか
という点を巡る訴訟が続いています。
トランプ政権による送還政策の強化や保護制度の縮小は、この議論に少なからず影響を与える可能性があります。
もし将来、裁判所がSTCAの運用に大きな影響を与える判断を示せば、カナダの難民制度そのものが再び見直される可能性もあります。
まとめ
今回のニュースだけを見ると、「米国からカナダへの難民申請が急増する」と考えがちですが、実際には2023年と2026年の制度改正によって、カナダの難民制度は大きく厳格化されています。
今後の焦点は、送還対象者の増加そのものではなく、
- STCAを巡る司法判断
- カナダ政府の今後の制度運用
- 米国の移民政策のさらなる変化
に移っていくものと思われます。
難民制度を理解するうえでは、個々のニュースだけではなく、制度全体の流れを把握することが重要と思われます。
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