カナダ移民局(IRCC)は2026年10月16日、Express Entry(エクスプレス・エントリー)のポイント制度を大幅に変更すると発表しました。新制度は2026年11月3日から施行されます。
今回の改正では、カナダ国内での就労経験に加え、特定の高賃金職種(High-wage occupations)での職歴やJob Offer(雇用オファー)に対して、新たなポイントが与えられます。さらに、2025年3月に廃止されたJob OfferへのCRS加点が復活し、一定の条件を満たせばLMIA(労働市場影響評価)がなくても最大100点を取得できるようになります。
一方、今回の改正については、不正なJob Offerの増加や職種間の格差、移民制度の公平性など、さまざまな懸念も指摘されています。本記事では、制度変更の内容と申請者への影響、そして今後の課題について解説します。
1.2026年Express Entry改正の主な変更点
Express Entryは、カナダの経済移民プログラムにおいて、申請者をポイントで評価し、永住権申請への招待(ITA)を行う制度です。申請者は年齢、学歴、語学力、職歴などに基づくCRS(Comprehensive Ranking System)スコアによって順位付けされます。
今回の改正では、新たに「Labour Market Integration(労働市場への統合)」という評価項目が導入されます。この項目では、以下のいずれかによってポイントが与えられます。
- カナダ国内での就労年数と、高賃金職種での就労経験
- 高賃金職種に該当する有効なJob Offer
両方の条件を満たしていてもポイントは合算されず、より高い方が採用されます。この項目の最高点は、配偶者を伴わない申請者が150点、配偶者を伴う申請者が140点です。
なお、カナダでの就労経験が高賃金職種に該当しない場合でも、従来の就労年数に基づくポイントは引き続き認められます。
2.高賃金職種のカナダ就労経験に最大70点加算
今回の改正で注目されるのが、高賃金職種でのカナダ就労経験に対する追加ポイントです。対象となる職種で12か月以上の就労経験がある場合、職種の賃金水準に応じて次のポイントが加算されます。
| 職種の賃金水準 | 追加CRSポイント |
|---|---|
| 全国の賃金中央値の平均の2倍以上 | 70点 |
| 同1.5倍以上 | 40点 |
| 同1.3倍以上 | 20点 |
これらのポイントは、カナダでの就労年数に基づくポイントに追加されます。例えば、配偶者を伴わない申請者がカナダで3年間働いている場合、就労年数によるポイントは64点です。そのうち12か月以上が最上位の高賃金職種に該当すれば、さらに70点が加算され、合計134点になります。
一方、同じ3年間の就労経験があっても、高賃金職種に該当しなければ64点のままです。つまり、就労年数が同じでも、職種によって大きなポイント差が生じることになります。
対象となる就労経験は、原則として過去10年間にカナダ国内で取得したNOCのTEER 0、1、2、3に該当する職歴です。また、12か月の経験は必ずしも連続している必要はなく、複数の対象職種での経験を合算できる場合もあります。
3.Job OfferへのCRS加点が復活|最大100点
もう一つの大きな変更は、Job Offerに対するCRS加点の復活です。カナダ政府は2025年3月、Job Offerに対するCRS加点を廃止しましたが、今回、高賃金職種に限定して再導入します。
| Job Offerの職種区分 | CRSポイント |
|---|---|
| 全国の賃金中央値の平均の2倍以上 | 100点 |
| 同1.5倍以上、2倍未満 | 70点 |
| 同1.3倍以上、1.5倍未満 | 50点 |
| 対象外の職種 | 0点 |
例えば、カナダ国内での就労経験がなくても、対象となる高賃金職種で有効なJob Offerを取得すれば、最大100点を得られる可能性があります。ただし、Job Offerは原則として永住権取得後少なくとも1年間の継続的なフルタイム雇用を予定したものである必要があります。また、IRCCは雇用オファーの真正性に加え、申請者が実際にその仕事に就く意思があるかどうかも審査します。
また、Job OfferがExpress Entryのプログラム参加資格を満たすために利用できるかという問題と、CRSポイントの対象になるかという問題は別です。高賃金職種に該当しないJob Offerであっても、Federal Skilled Worker Programなどの参加資格を満たすために利用できる場合があります。
4.Express Entryの高賃金職種とは?対象NOCの確認方法
今回の制度で特に誤解されやすいのが、「高賃金職種」の定義です。高賃金職種に該当するかどうかは、申請者本人が実際に受け取っている給与額ではなく、職種ごとに定められた全国の賃金水準によって判断されます。
IRCCはNOC(National Occupational Classification)に基づき、対象職種を3段階に分類しています。今回のリストには、医師、エンジニア、IT関連職、管理職、大学教員など、さまざまな職種が含まれています。
したがって、実際の給与が高くても、その職種が指定リストに含まれていなければ、高賃金職種としての追加ポイントは得られません。逆に、本人の給与が比較的低くても、職種が指定リストに該当し、その他の条件を満たせば、ポイントの対象になる可能性があります。
重要なのは、自分の仕事内容に対応するNOCコードを正しく確認することです。IRCCが公表している対象職種のリストは、2023年から2025年の賃金データに基づいています。
対象職種の一覧は、IRCC公式サイトの「High-wage occupations and how we assess them」で確認できます。
5.LMIAなしのJob OfferでもCRS加点の対象に
今回の改正では、Job Offerに関するLMIA要件も大きく変わります。2026年11月3日以降、新制度のCRS加点を受けるためのJob Offerについて、LMIAは必須ではなくなります。また、LMIAを取得していること自体による追加ポイントや優先的な取り扱いもありません。
これまでLMIAの取得が難しかった雇用主や外国人労働者にとっては、重要な変更です。ただし、LMIAが不要になるのはExpress Entryにおける一定のJob Offerの評価についてです。外国人労働者がカナダで働くためのWork Permitに関するLMIA要件が、全面的に廃止されるわけではありません。
また、IRCCはJob Offerの真正性について引き続き審査します。具体的には、雇用主が実際に事業を行っているか、雇用の必要性があるか、給与を支払う能力があるか、申請者がその仕事を遂行できるかなどが確認されます。LMIAが不要になったからといって、Job Offerの審査がなくなるわけではないことに注意が必要です。
6.Express Entry改正で有利になる申請者
今回の改正によって、特に有利になると考えられるのは、次のような方です。
- カナダで高賃金職種に該当する仕事をしている方
- 対象職種で1年以上のカナダ就労経験がある方
- カナダの雇用主から対象職種でJob Offerを受けている方
- LMIAを取得していないものの、条件を満たすJob Offerを持っている方
一方、高賃金職種に該当しない仕事に従事している方は、今回の追加ポイントを得ることができません。既存のカナダ就労経験に対するポイントは引き続き認められますが、高賃金職種で働く申請者との間でCRSスコアの差が広がる可能性があります。
もっとも、Express Entryにはフランス語能力や特定の職種を対象としたカテゴリー別選考、州推薦制度など、複数の永住権取得ルートがあります。高賃金職種に該当しないからといって、永住権取得が不可能になるわけではありません。
7.Job Offerの不正防止とIRCC審査への懸念
今回のExpress Entry改正は、カナダの労働市場のニーズに合った移民を優先的に受け入れることを目的としています。しかし、その公平性や制度の信頼性については、すでに懸念が指摘されています。
Job Offerの不正取引が再び増える可能性
最も大きな懸念は、Job Offerを利用した不正行為です。カナダ政府は2025年3月、LMIAの売買などの不正を防止するため、Job Offerに対するCRS加点を廃止しました。ところが今回の改正では、Job Offerへの加点を復活させる一方、従来必要とされていたLMIAを不要としています。
もちろん、LMIAがあれば不正を完全に防げるわけではありません。しかし、LMIAによる事前審査を経ずに最大100点が付与されることで、架空の雇用オファーを利用した不正が再び発生する可能性があります。
従来、LMIAの審査では、Service Canadaが雇用主の事業実態や雇用の必要性、賃金などを確認していました。しかし、今回の改正では、LMIAを必要としないJob OfferにもCRSポイントが付与されるため、IRCCの審査官が雇用オファーの真正性や雇用主の適格性を判断する役割を、これまで以上に担うことになります。
ここで懸念されるのは、審査基準の統一性と透明性です。Service CanadaによるLMIA審査に代わる明確で標準化された審査基準が整備されず、個々のIRCCオフィサーの裁量に大きく委ねられた場合、審査官によって判断が異なる可能性があります。
その結果、正当なJob Offerであっても不合理な申請拒否(Refusal)につながったり、追加書類の提出要求が頻繁に行われたりすることが懸念されます。さらに、雇用主の事業実態や雇用条件の確認に時間を要することで、永住権申請全体の審査期間(Processing Time)が長期化する可能性もあります。
8.Express Entry登録者が11月3日までに確認すべきこと
IRCCは、新制度への移行に伴い、既存のExpress Entryプロフィールのポイントを再計算します。再計算には最大2週間程度かかる可能性があり、その間は招待ラウンドが一時停止される予定です。
特にJob Offerを持っている方は、11月3日までにプロフィールの登録情報が正確であるか確認することが推奨されています。また、LMIAを伴わないJob Offerの登録については、オンラインシステムが新制度に完全対応するまで暫定的な入力方法が指定されています。誤った情報を登録しないよう、IRCCの公式案内を確認する必要があります。
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参考資料
カナダ移民局(IRCC)
- 2026 Changes to points for Canadian work experience and job offers
- High-wage occupations and how we assess them
- Changes to Express Entry for high-wage occupations
- 2026 consultations on Express Entry reforms – Final report
※本記事は2026年10月26日時点の公表情報に基づいています。制度の詳細や適用条件は、申請時点の最新情報をご確認ください。
