今回は移民・難民保護法(IRPA)第40条に規定されている虚偽申請(ミスリプレゼンテーション)について最近の判例を使って説明します。
弊社が実際に遭遇したケース、”移民申請に通るように職歴のレターを作って(偽造して)欲しい”、“IELTSのスコア、全スキル6以上は、取れそうにないのでポジションを下げて(変えて) 申請したい”、“中国の警察証明取得が面倒なので、その期間は日本に居たことにして欲しい。” IRPAの第40条には“移民法の運用を誤らせるような重大な虚偽や隠蔽を行った場合は不適格となる”という規定があります。したがって、前述のような申請を行なってはいけないのは明らかです。では過去にビザ申請却下歴があるのに、うっかりオンライン申請の質問に“NO”とクリックしてしまった、前妻との間に子供がいることは重大だと思わなかったので申告しなかった、代理人に任せていたので虚偽申請を自分は知らなかった、こういった言い分は通用するのでしょうか。
最近の判例 (Paashazadeh v. Canada, 2015 FC 327) を見てみることにしましょう。このケースの申請者(連邦スキルドワーカー)は、広告・マーケティング会社からジョブオファーを取得し、自国での2つのマーケティング会社での職務経験のみを申告して申請していました。ところが、一度はオフィサーから追加で要求された書類の提出を拒み、再度の要請でやむなく提出したところ、申告した会社以外に旅行会社でも働いていたことが発覚しました。そして、最終的にIRPA第40条が適用されて申請が却下されました。
その後司法審査が行われましたが、申請者側は、この旅行会社の職歴はスキルワーカーのポイントに何ら影響を及ぼさないので“重大な事実”には当たらない、また、オフィサーを騙そうという意思はなかったと主張しました。しかし、判事はこれを認めず訴えを棄却しました。IRPA第40条では虚偽申請が故意に行われたかどうかは問題ではなく、また、単純なミスであろうとなかろうと“完全、正確、真実の”記載された申請書を提出しなかったことが審査の妨げになったという事実だけでも、十分に虚偽申請であると結論づけています。ただ、このケースの場合、旅行会社の職歴を記載していなかったことよりも、その後の追加書類の要請への対応のまずさがこのような結果を導いたとも考えられます。
一昨年の法改正により、IRPA第40条を根拠として申請を却下された場合は、以前2年だった国外退去期間が5年に延長されました。その間はカナダに一時滞在者として入国できないだけでなく移民申請もできません。しかし、現在のエクスプレスエントリーのオンラインシステムでは、情報を修正した後の保存を忘れ誤情報を含む内容で申請してしまいやすいのも事実です。また、意味がよくわからない質問にとりあえずNOとクリックしてしまうこともあると思います。2年ならまだしも、5年の国外退去となると申請者側も黙ってはおらず、今後この種のミスリプレゼンテーションに関する訴訟が増えることが予想されます。