Humanitarian and Compassionate Consideration (H&C)による申請とは、移民法で定められた永住権取得のための要件を満たすことのできない申請者が、例外を認めてもらうために行う申請方法です。その根拠となる移民・難民保護法の*第25条では“入国適格や申請要件を満たしていない外国人に対して人道的配慮により大臣の裁量で、永住権を与えたり移民法の要件を免除すること”が規定されています。H&Cによる申請は、難民申請を却下されたケースや要件の一部を満たすことのできないファミリークラスの申請者に多いですが、合否を決める絶対的な基準はなく、考慮すべきファクターがリストされている以外は、オフィサーに広範な裁量権が与えられています。
2015年の最高裁の判決、Kanthasamy v. Canada (MCI) [2015 SCC 1] ではH&Cの審査にあたって、“unusual and undeserved or disproportionate hardship”(予想することも対処することもできない、個人のコントロールの範囲を超えた固有の不合理な苦難)があるかどうかは単なるガイドラインにすぎず、これに拘束されてオフィサーの裁量が制限されてはならないとの見解が示されました。個々のケースにあてはまる適切なH&Cのファクターを全て等しく考慮すること、柔軟性をもって審査することの重要性が強調されています。
また、条文中に明記されているように、H&Cの審査においては“the best interests of a child”に特別な注意を払うことが求められています。子供の情緒的、社会的、文化的、身体的幸福を何よりも優先させることは、カナダでは移民法に限らず幅広く受け入れられている価値観です。具体的には、子供の年齢、申請者(親)への依存性の程度、成長の度合い、カナダでの生活基盤、祖国との結びつき、祖国の状況と祖国に帰されたときの影響、教育、メディカルやスペシャルニーズの有無などが、H&Cのケースが認められるかどうかの重要なファクターとして挙げられています。
H&Cの適用は、とりわけ、ファミリークラスの申請において顕著です。一つは配偶者・コモンローバートーのスポンサーシップ【国内申請】における申請者の滞在ステータスに関するポリシーがあります。不法滞在、不法就労していた外国人でも、ステータスのない状態のままカナダ国内から永住権を申請をすることが認められています。カナダで既に同居しているカップルを申請のためにあえて引き離し、国外退去させるのは人道主義的観点から酷だという考えがあります。
また、ファミリークラス中にはカナダに住む“天蓋孤独”な人、つまり、市民権または永住権を持つ配偶者、コモンローパートナー、子供、親、祖父母、兄弟、叔父、叔母、甥、姪がおらず、ファミリークラスで呼び寄せ可能な人が一人もいない場合に、年齢にかかわらずこれら親族の一人を呼び寄せるために永住権申請のスポンサーになることができます。(移民法規則第 117条(1)項(h)号)残念ながら友人のスポンサーになることは認められていません。
永住権の更新の際にカナダ滞在日数がわずかに居住要件を満たさない場合も、H&Cの考慮でオフィサーが更新を認めることがあります。ここでも“the best interests of a child”が繰り返し強調されています。(移民法28条(2)項(C)号)
カナダの移民申請において限られたパイの奪いあいが激しくなる中、要件を満たすことができない場合の最後の砦としてH&Cの申請は今後も増加することが予想されます。伝統的な家族の価値観に縛られるH&Cですが、先進国では一生をシングルで過ごす人、子供を持たない人が増える中、家族の形の多様化とともにH&Cがより進化することを期待したいと思います。また、現在のエクスプレスエントリーのシステムにおいて、カナダで就労経験を重ねれば重ねるほど、年齢ポイントが漸減し永住権取得が遠のいてしまう人たちも増えています。こうしたグループを救済するH&Cがあってもいいのではないかと思います。
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- (1) The Minister must, on request of a foreign national in Canada who is inadmissible or who does not meet the requirements of this Act, and may, on request of a foreign national outside Canada, examine the circumstances concerning the foreign national and may grant the foreign national permanent resident status or an exemption from any applicable criteria or obligations of this Act if the Minister is of the opinion that it is justified by humanitarian and compassionate considerations relating to the foreign national, taking into account the best interests of a child directly affected.