カナダの大手商業不動産・投資会社のCBRE社が最近発表したレポートによると、トロントは2015年から2016年にかけてIT業界の成長が著しく、22,500もの新規雇用を創出し、北米50都市の中で最も高い伸び率だっということです。トランプ政権成立後は、USにおける外国人就労者のビザ取得が難しくなったこともあり、シリコンバレーからカナダに開発拠点を移すスタートアップ企業の記事や、ベンチャーキャピタルがこれを後押しする動きをマスコミも盛んに取り上げています。これをチャンスとばかりに、カナダ政府はカナダのIT業界に世界中から最も優秀な人材、いわゆるグローバルタレント獲得に躍起になっているように見えます。
2017年6月12日にカナダ政府が発表した外国人雇用の新しいストリーム、Global Talent Streamでは、一定の要件を満たす企業は、Employment and Social Development Canada (ESDC)へのLMIA申請にあたり、通常義務付けられているカナダ人雇用の積極的なリクルート活動の証明が免除され、政府から優先審査を受けることができます。プロセスタイムは10日間と短く、また、ESDCで承認された企業からジョブオファーを受けた外国人は、2週間でワークパーミットの審査が完了するということです。これだけを聞くと人材不足が深刻といわれるカナダのIT業界にとっては朗報に思われます。
しかしながら、具体的な申請条件やプロセスを見ていくと、ことはそれほど単純ではありません。ESDCにはLabour Market Benefits Planを提出し、カナダ人・永住権保有者の雇用を促進、トレーニングを実施し、カナダの労働市場にポジティブな影響をもたらすように約束させられます。再申請の際には約束したことが本当に実行されたかどうかが審査されます。これは高賃金の外国人就労者を雇用する際に現在提出を義務付けられているTransition Planとあまり違いがないように思います。プライベートセクターでの経験もないであろうサービスカナダのオフィサーを納得させ承認を得るために、また膨大な時間が必要になることが予想されます。
このストリームでは申請方法が2つあり、ESDCによって指定されたReferral Partnerから推薦を受けるカテゴリーAと、*指定職種のポジションで直接申請するカテゴリーBがあります。カテゴリーAはカテゴリーBの職種に含まれていない、ビジネスの開発担当者が念頭におかれていると思われますが、対象となる外国人就労者はその業界での高度な知識と、高等教育、5年以上の経験を持ち、年収8万ドル以上のオファーが必要とされています。一方、カテゴリーBは、プログラマー、システムエンジニア、ウェブデベロッパー、デジタルメディア・デザイナーなどが含まれていますが、一部の職種ではやはり8万ドル以上の年収が必須となっています。
予算の限られるスモールビジネスや社内体制が確立していないスタートアップの会社が一挙に事業を立ち上げたり急成長しようとする際に、同時にカナダ人の雇用やトレーニングを約束させられたり、最低8万ドルもの賃金保証をさせられることは果たして現実的なのでしょうか。北米で成功しているアントレプレナーを見ると大学中退者、独学のプログラマーなど、高学歴者ではない場合が多いことをしばしば耳にします。政府の掲げるコンセプトは素晴らしくても申請要件が現実にそぐわなかったり、オペレーション段階で多くの面倒なプロセスが加わると、これまでも失敗に終わった政府主導のプログラムの多くと同様に、絵にかいた餅で終わってしまう可能性もあります。
*カテゴリーBの指定職種:Computer and information systems managers, Computer engineers (except software engineers and designers), Information systems analysts and consultants, Database analysts and data administrators, Software engineers and designers, Computer programmers and interactive media developers, Web designers and developers, Electrical and electronics engineering technologists and technicians, Information systems testing technicians, Digital media designers