– カナダ移民政策の期待と現実、そして今取るべき戦略 –
カナダ政府は、先日発表された2026-2028の移民計画の中で、オフィシャルな数字として掲げる年間38万人の移民受け入れ数に加えて、2026年から2027年にかけて最大115,000人の難民認定者(Protected Persons)と33,000人の一時労働者を永住権(PR)へ移行する特別措置を発表しました。この発表は大きな注目を集め、現在カナダで働く外国人労働者に「もしかしたら自分にもチャンスがあるのでは?」という期待が広がっています。 しかし、カナダの移民システム全体を見渡すと、この数字が意味するものは単純ではありません。むしろ、期待が過度に膨らみすぎると、戦略を誤ってしまうリスクすらあると言えます。
33,000人の枠は魅力的だが、“全体の1%台”にすぎないという現実
現在、カナダには約300万人近くの一時滞在者(学生ビザ、就労ビザ保有者)が存在していると言われますが、その中で33,000人という枠は、一時滞在者全体のわずか1%台にすぎません。非常に限定的な特別措置であり、特定の職種や地方の労働者が中心になる可能性が高いと考えられます。カナダ政府はこの措置を、A one-time, two-year initiative (in 2026 and 2027) to fast track permanent residence for skilled temporary workers who are already contributing to communities, and working in Canada in specific in-demand sectors – with a focus on those in rural areas. と位置付けています。
なぜカナダはこのような特別措置を設けたのか?
カナダでは、医療、建設、介護、運輸、食品加工など基幹産業で深刻な人手不足が続いています。特に地方では、外国人労働者がいなければ事業が維持できない状況も珍しくありません。
加えて、一時滞在者数が急増し、就労許可保持者や就労許可保持者が300万人規模に達したと報じられる中で、“働いているのにPRのルートが見えない”という構造的問題も顕在化しました。近年の政策変更による混乱や批判も加わり、政府としては、既にカナダで働き、納税し、地域社会を支えている外国人に限定的でも道を開く必要性が高まっていました。
では何を目指すべきか?現実的にPRへ近づく4つの戦略
① Express Entry(EE)には必ず登録しておく
今回の33,000人の特別枠がどのような仕組みを通じて選抜されるのかについて、IRCCは現時点で明確な方針を示していません。しかし、過去の制度運用を見ても、EE(Express Entry)をベースに候補者を抽出するケースは非常に多く、EEプロファイルを持っていない人にはチャンス自体が訪れない可能性があります。
EEの登録は無料であり、登録しておくことで 連邦プログラム・PNPの両方の入口が開かれるため、どの職種・どの地域で働いている方にとっても最初のステップとしては欠かせません。また、EEの登録に必要な書類を早めに整理しておくことで、今後制度変更があっても迅速に対応できるというメリットがあります。
② PNP(州推薦プログラム)を最大限に活用する
カナダの移民戦略は、今後ますます州主導(PNP)へと比重が移っていきます。2026年のPNP枠は 91,500人 と大幅に拡大されており、これはEEよりも成長率が高いカテゴリーです。
各州ではすでに以下のような「ターゲット型ドロー」が強化されています。
- 職種別ドロー(分野ごとの人材を直接選ぶ)
- 地域別ドロー(地方・リモートエリアの雇用者優先)
- EE登録者を対象にした連動ドロー
そのため、PNPに備えるには EEスコアの底上げ(語学力、学歴、職歴、資格など)が不可欠です。わずか数点の差が、PNPのインビテーションを左右するケースも少なくありません。
現在カナダに滞在している方にとって、PNPは最も現実的で、かつ制度上の安定性が高いPRルートといえるでしょう。
③ フランス語は“現代カナダ移民における最強の武器”
連邦政府は、カナダ全体における「フランス語話者の人口比を6%に維持・拡大する」という長期目標を掲げています。これは、フランス語系コミュニティ(FCFA)が強く求めてきた方針であり、政府が公式に政策に取り入れたものです。
近年、ケベック州が移民数を抑制する方向に動く中で、連邦政府は“ケベック州以外でフランス語話者を増やす”必要がさらに高まりました。近年の移民政策を精査すると、語学の中でも特にフランス語の優遇が際立っています。
- EEで最大 50ポイント以上の加算
- French-speaking draws でフランス語話者を優先的に招待(昨今では、頻度、規模共に最大)
- オンタリオ州の French-Speaking Skilled Worker (FSSW) では毎年安定的な選抜
- LMIA免除の Francophone Mobility Program が2023年の緩和後さらに人気上昇
英語だけでPRを目指すのは、近年ますます競争が激しくなっています。その中で、英語+フランス語の組み合わせは最も強力な戦略であり、他の申請者との差別化にもつながります。
④ 都市部だけでなく「地方での就労」を視野に入れる
カナダの地方・リモートエリアでは、医療、建設、介護、運輸、接客などの分野で深刻な人手不足が続いています。そのため、地方で働く人に対しては、各州や連邦が優先的にPRの道を提供するプログラムを積極的に展開しています。
代表的なものとして:
これらは都市部のように競争が激しくなく、実際に「都市ではPRが見えなかったが、地方に移った途端に道が開けた」というケースもあるようです。
カナダ全体の方向性として、PRを取りやすいのは都市部から地方へ、という構図が今後も続くと見られています。
まとめ:希望はあるが、戦略なしでは届かない
今回の33,000人枠は確かに朗報ではありますが、その対象は全体のわずか1%台にすぎず、誰にでも自動的にチャンスが広がるわけではありません。しかし、その一方で、PRへの道はゼロではなく、むしろ戦略次第で確実に近づくことができます。
- EEに早めに登録し、常に準備を整えておく
- PNPの拡大を最大限に活かす
- フランス語という強力な武器を磨く
- 都市の枠にとらわれず、地方での就労を柔軟に検討する
これらはすべて、外国人労働者自身が「自分の努力でコントロールできる部分」です。特別措置に期待するよりも、こうした現実的な戦略を積み重ねる方が、結果的にはPRへの最短ルートとなるように思います。
