2015年1月より導入されたエクスプレスエントリーの主要な目的は、1)申請書受付数のコントロール、2)労働市場、各州ニーズへの迅速な対応、3)プロセスタイムの短縮です。昨年1年間に発行された移民申請の招待(ITA)の数は、旧システムの未審査ファイル数を考慮して抑えられ、31000にとどまりました。また。2015年の上半期にはLabour Market Impact Assessment (LMIA)を取得したカナダ経験クラスからの申請者を優先した選定 (Draw)が行われ、飲食業界からの申請者に多数のITAが発行されました。さらに、このシステムからの申請者の80%が6カ月以内に審査を終了していることからも、ある程度政府側の思惑通りの結果になっているといえます。しかしながら、一方ではカナダ弁護士協会、高等教育機関、産業界からはエクスプレスエントリーについての様々な問題点が指摘されており、IRCC大臣は早急な対応を迫られています。
まず、オンライン申請システムに対する信頼性の回復は急務です。頻繁なシステムダウン、予告なしのメンテナンスによって申請のデッドラインを逸してしまったり、入力内容が消えてしまって再度作業をさせられるといったフラストレーションの声が上がっています。また、追加ドキュメントを送っても担当オフィサーに届かず、そのまま申請を却下されたという事例も報告されています。
次に、エクスプレスエントリーによって不利な状況に置かれている2つのグループ、つまり、留学生とLMIAを免除された外国人就労者の救済も急がれます。留学生の場合、ITAを発行されるレベルのスコアを取得するためにはLMIAがほぼ必須です。しかしながら留学生が卒業後すぐにその職種の平均賃金以上をオファーされ、リクルート活動によってカナダ人の中に適任者が存在しないことを証明することなど不可能に近いと思います。また、NAFTAや企業駐在員(シニアエグゼクティブやスペシャリスト)などLMIAを免除された外国人就労者も、同様に永住権申請用にLMIAを取得しない限りITAを発行される可能性は今のところ低くなっています。
IRCCは留学生に対しては追加ポイントを与えること、LMIAの適用については再検討するとしていますが、対応が遅れると、有能でカナダ経済に寄与すると期待される人材を次々に祖国に帰してしまうことになるので、迅速な対応が望まれます。また、オンラインシステムの脆弱性については早急な対応が期待されるとともに、技術的な問題が発覚した場合は、タイムリーにFAQがアップデートされるようにして欲しいと思います。