今回は成功例として取り上げられることの多いカナダ移民政策のあまり知られていない一面についてとりあげます。
イスラム教徒の入国やシリア難民受け入れを制限しようとする米国新政権の姿勢とは対照的に、カナダの移民・難民の受け入れに寛大な国としてのイメージはますます強くなっています。しかしながら、カナダは露骨には出さないものの移民・難民を出身国や宗教によって巧みに操作・選別する一面も持っています。昨今カナダの移民政策を称賛する声が多い中、今回はカナダイミグレーションの差別的側面にスポットを当ててみたいと思います。
カナダの強みは多様性にあり、ある一つのグループの勢力が極端に大きくなる前にそれを抑制しようとする力が働くようです。2000年代は中国からの移民が全盛期で、移民プログラムの各カテゴリーで移民者数トップの地位を独占しました。そのため、連邦政府はスキルワーカー移民の語学力のバーを高くし、中国人が大半を占める連邦投資移民プログラムを廃止しました。その結果、現在では中国からの移民者数はインド、フィリピンの後塵を拝しています。また、ケベック州投資家プログラムは今でもあからさまに“中国出身者枠”を設け、その数をコントロールしています。
前ハーパー政権時代はシリア難民の受け入れが少なすぎるとしてカナダはUNからも非難されていましたが、当時はシリアの少数派であるキリスト教徒だけを選別して受け入れていました。現政権になってからもセキューリティーリスクが低いと考えられる女性、子供、ファミリー、LGBTを優先し、独身男性は後回しにされています。
昨年行われた某スキルワーカーのオンライン申請は、受付開始と同時に申請者が殺到し即日クローズとなりましたが、政府サイトへアクセスすらできなかった者が多数にのぼりました。政府はアクセス可能なIPアドレスをコントロール、つまり、フランス語圏からのアクセスを容易にしていたという噂がまことしやかに流れました。ところが、それを逆手にとってIPアドレスを操作するアプリケーションを使ってフランス語圏からアクセスしているように見せかけるやり方で無事申請できたという話も耳にしました。
日本は現在国内にビザオフィスがなく、地理的にも遠いフィリピンなどと同じグループにされてビザ申請手続きやプロセスタイムの点で不当に不利な立場に置かれていると感じることもありましが、結局カナダには“来てほしい”人を選別する権利があるという事実を受け入れざるをえません。称賛されるカナダ移民政策ですが、選別と差別が背中合わせの関係にある事実を認識し、政府にはカナダの移民政策を世界に誇大広告することがないよう願いたいものです。