トルコの海岸に打ち上げられた3歳の少年の遺体写真が世界中に流れ、ドイツを目指して欧州に押し寄せるシリア難民のニュースが連日報じられる中、シリア難民の問題がカナダ居住者にとって大きな関心事になりつつあります。これに連邦総選挙のタイミングが重なり、これまでシリア難民受入れに消極的な姿勢をとっていたハーパー政権に対し、ここぞとばかりに野党が激しい批判を浴びせています。
カナダは第二次世界大戦中に、ナチスの恐怖から逃れるために渡航した900人のユダヤ人難民受け入れを拒否し、欧州に送り返したという不名誉な歴史がありますが、それ以降は難民受入れに極めて寛大な措置をとっています。旧ソ連の侵攻に起因するハンガリー動乱(1956年)では37,000人、チェコのプラハの春(1968年)では11,000人、更に、ベトナム戦争ではボートピープルとなった60,000人を受入れ、最近では1999年のコスボ紛争で2カ月の間に5,000人の難民を受け入れるなど、カナダは難民救済に力を注ぐ国として世界的にも認知されています。
しかしながら、カナダの難民政策はハーパー政権が単独政権となった2011年以降大きく転換しました。偽の難民申請排除の名の下に、Designated countries of origin のリストが作られ、安全と考えられる国出身の難民申請者からは申請却下後の不服申し立ての権利が奪われました。さらに、難民申請者に対するヘルスケアサービスの適用も制限されました。(最近いずれも違憲であるとの裁判所の判決が出ています)シリア難民受入れについては、スピードもその規模(年間2500人)も不十分であるとUNHCR(難民の保護と支援を行う国連機関)から指摘を受けていました。
今回の少年の事件がきっかけとなり、市民や野党の批難を受けてカナダ政府は2016年9月までに10,000人を受け入れるためプロセスのスピードアップを図ると発表しました(9月19日付)。しかし、カナダ経済を支えていた石油価格は下がり、カナダのGDPは2四半期続けて減少しています。とりわけ政府がスポンサーとなって大量の難民を受け入れた場合に、これを経済的に支えていくためのコストはカナダ国民一人一人が負担する覚悟が必要になり、そう考えると単に受入れ数を競う政治家のキャンペーンに惑わされてはいけないと思います。