2015年6月11日付で、昨年夏から段階的に行われていた市民権法改正の全条項が施行されることになりました。振り返れば2006年のレバノン侵攻の際に、カナダに居住していないカナダ国籍者救出のために多額の国民の税金が使われたと報じられた頃から、市民権法改正の議論が活発になったと記憶しています。そして、数年前に虚偽申請によって多数のカナダ非居住者がカナダ市民権を取得していたことが判明し、市民権法改正の動きを加速させることになりました。今回の改正によって、全体としては “Citizenship of Convenience”抑止をスローガンに市民権取得要件が厳しくなっています。
市民権取得のためには、これまで申請前4年のうち3年間カナダに居住していれば申請できましたが、改正後は6年のうち少なくとも1460日(4年間)、さらに申告する暦年4年間については毎年少なくとも183日カナダに居住していることが必要となりました。また、滞在日数の計算においては、従来半日分として数えられていた学生、就労者としての滞在期間は除外され、永住権保有者としての滞在に限られることになりました。また、市民権テスト合格と英語スコアの提出は18歳から54歳の申請者に義務付けられていましたが、改正によって14歳から64歳までに拡大されました。
さらに、成人の申請者は市民権申請の際に、カナダに居住し所得税を納める意思を有することを表明しなければなりません。これによって、これまで特に問題とならなかったケース、つまり、申請書提出後に速やかに出国しカナダ非居住者となることは虚偽申請と解釈されるおそれがあります。尚、虚偽申請を行った場合は最高100,000ドルの罰金か最長5年間の懲役、またはその両方が科せらます。(これまでは1,000ドルの罰金か1年の懲役、またはその両方)最後にこれまで市民権申請においては有料代理人の規定がありませんでしたが、今後は移民申請同様、移民コンサルタント協会 (ICCRC)のメンバーまたは弁護士(その監督下にあるパラリーガル、ロースクール学生)のみが市民権申請の有料代理人になれると規定されました。
最後に、市民権の取消しについてです。改正後は大半の市民権取消しは連邦裁判所ではなく、カナダ市民権・移民省(CIC)のオフィサーによって判断されることになりました。さらに、二重国籍者がテロなどの重犯罪を犯した場合はカナダ国籍を剥奪されるといったカナダ単独国籍者の場合には適用されない条項が加えられたことで、カナダ市民の間では、新たな“second-class status”が作られたとの非難の声も上がっています。