2020年3月18日以降、COVID-19パンデミックに伴う渡航規制が敷かれ、カナダ国内外のイミグレーションオフィスが一時閉鎖され、カナダ移民省は殆ど麻痺状態に陥いりました。昨年後半から徐々にオフィサーのリモートワークでプロセスが再開され、一部のスタッフはペーパーで提出された申請書を開封し、スキャンを撮るためにオフィスに戻りました。それでも2020年に永住権発行数は、目標の341,000人に遠く及ばず184,000人に留まりました。この未達分を補うために、2021年には 401,000 人に、2022年 411,000人、2023年は421,000 人と更に永住権発行数を上積みする計画です。今回はその目標達成のために今年上半期に行われた施策を振り返ってみたいと思います。
カナダ経験クラス(CEC)のみ対象のInvitation発行
今年に入ってからのExpress EntryのDrawでは、州指名プログラム(PNP)のポイントを持つ申請者かCECの申請資格を満たす申請者のみにインビテーションが発行されています。カナダ国外在住者の多い連邦スキルドワーカー(FSW)や連邦スキルドトレード (FST) を含む全カテゴリー対象のDrawは2020年12月23日を最後に行われていません。高いスコアを持つFSWの申請者が対象から外れたことで、カットオフスコアは、2021年1月7日の461ポイントから直近の2021年7月22日の357ポイントまで、半年で100ポイント以上下がりました。今後渡航規制が徐々に解除されて、国外申請者の入国に問題がなくなると、全カテゴリー対象のDrawが再開されてカットオフは再び上昇すると予想されます。インビテーションを狙うにはここ1,2か月が勝負かもしれません。
唐突に実施される政府施策への歓迎と失望の声
2021年2月23日に行われたカットオフ75のCEC対象Drawでは、27,332人にインビテーションが発行されました。カットオフ75というのは、1年以上のカナダでの職歴とエクスプレスエントリー登録に必要な最低レベルの英語のスコアを持ち年齢が43歳以下であれば学歴ポイントがゼロでもインビテーションを受けられるレベルになります。もともとエクスプレスエントリーが始まる前は、この条件で先着順に受け付けられていました。しかしながら、この異例なDrawが実施されるまでは、ほとんどの人が400点以上のスコアがなければ登録しても意味がないと考えていたのではないでしょうか。“たまたま”登録していた人がラッキーだったということになります。再びこのようなサプライズがあるかどうか全くわかりませんが、とりあえず登録できる人は登録しておいた方がいいと、この時から弁護士・コンサルタントのアドバイスが豹変しました。
唐突だったのはこれだけではありません。カナダ在住者を対象とするいわゆるパスウェイプログラムというのが2021年4月14日に発表され、ヘルスケアワーカー、エッセンシャルワーカー、カナダのポストセカンダリープログラムを修了した就労ビザ (PGWP) 保有者を対象に、合計90000人の申請を11月5日まで受け付けられることになりました。もっとも、PGWP保有者対象のプログラムは受付の翌日に定員に達し締め切られました。
このプログラムが特異だったのは、5月6日の申請書受付前日夕方に具体的な申請方法や必要書類が発表され、その時に“たまたま”その必要書類を持っていた人が申請できました。例えば、2年以上前に受けた語学スコアしか保有していない人は申請できず、その時カナダ国外に一時帰国していた人も対象から外れました。エッセンシャルワーカーの職種リストも、例えばレストランのキッチンスタッフはリストに含まれない一方で、キャッシャーは含まれるなど極めて恣意的なものでした。
さらに驚かされたのが、このプログラム申請のために新たなオンラインアカウントを設置する必要があり、そのアカウントのIDやパスワードを代理人と共有してはいけない、代理人はドキュメントの準備をサポートしても良いが、情報入力やドキュメントのアップロードにタッチしてはいけないという方針が発表されました。これには弁護士協会も仰天し直ちに抗議しましたが、結局ZOOMなど使って画面を共有してサポートすることはできるが、申請者のアカウントに入るのはNGということでした。代理人は契約上の義務としてクライアントの申請内容に責任を持つことが求められますが、最終的に必要なドキュメントが全て問題なくアップロードされているか、政府に提供する情報が正確かどうかの確認作業も許されず、そのまま申請書が提出されてしまったというのが実態です。このように政府からライセンスを受けたコンサルタントや弁護士が、クライアントのために十分な責務を果たすことを阻害され、逆にゴーストコンサルタント(本人に成りすまして申請を行う無資格コンサルタント)に暗躍の場を提供してしまったことは残念です。
バイオメトリックス、健康診断、ランディング手続きの改善
パンデミック以降、バイオメトリックス(指紋採取)は、サービスカナダオフィスなどが閉鎖されてしまったため、取得が極めて困難になりました。またオープンした後は待機していた大量の申請者をさばききれないことがわかったため、ルールが緩和されました。(2020年9月22日) パンデミック前は一時滞在許可証取得の際に指紋を提供していても、移民申請の際には改めて採取しなくてはいけないというルールになっていました。現在では過去10年間に一度でも政府に指紋を提出していれば再度取得の必要がなくなりました。もともと指紋が時間と共に変化するとは考えづらいので、政府はこれまでカナダ人の税金を使って必要のないことをやっていたと非難されても仕方がないと思います。
移民申請に健康診断は必須であり、その診断結果は1年間有効で、これまでプロセスが長引くと再取得を求められました。2021年6月30日の発表では、カナダ国内在住の移民申請者は過去5年間に一度でも健康診断を受けていれば再度取得することを免除されることになりました。明らかにプロセスタイム短縮のための施策と考えられます。
ランディング手続きについては、カナダ国内在住者に限ってはオフィスに直接出向いたり、再入国する必要がなくなり、Confirmation of Permanent Residence(COPR)もオンラインで受け取ることが可能になりました。その後のPRカード申請もオンラインで写真をアップロードし、比較的短期間に発行されるようになりました。一方、カナダ国外在住者については、従来方式でCOPRをペーパーで受け取った後、渡航規制のためにカナダに入国することができない申請者が多数にのぼり、COPRが失効して再発行手続きをとらなくてはならなくなるなど、永住権取得プロセスがなかなか完結せず、不満の声が高まっています。
目標達成に邁進するカナダ移民省
当面の目標である今年 401,000 人永住権発行を達成するために少々荒っぽく、熟慮に欠けていると思われる政策も含まれているものの、移民省大臣のマルコ・マンデチーノ氏は、今年6月には月間で 45,100ケースという記録的な数のケースを審査完了、35,600人に永住権を発行したと誇らしげに発表しました。目標達成に楽観的な見通しを表明しています。