カナダで活躍する日本人、第24回目はトロントの会計事務所に勤務する山下さん(以下敬称略)をご紹介します。カナダでは移民が起業するケースも多く、その時に必ず会計士が必要になるのと、アジア系が会計士として比較的多く活躍している印象があったので、今回は山下さんに会計士の適性や職探しの秘訣、仕事内容、キャリアパスなどをお聞きしました。
QLS:まず永住権取得おめでとうございます。流れとしては大体予想した通りでしたか。そういえば警察証明の指紋取得でトラブりましたね。
山下:はい、それだけが問題でした。毎日ハンドクリームを塗ったり、できるだけのことをして2回目に挑んだのにまたリジェクトされたときは正直途方に暮れました。それで、再度取得に行ったときにこれで3回目なんですと言ったら、ダウンタウンのレッドシールノータリーというエージェンシーにブラックインクで指紋をとるのがうまい人がいるからそっちに行って、と言われたのですが、ダウンタウンまで行く都合がつかずまず近所のレッドシールに行きました。そこでもまたダウンタウンに行って、と言われて結局ダウンタウンのレッドシールに行って何とかパスできました。
QLS:場所によって上手い下手があるのは困りますね。他に永住権を取得された今、何かコメントはありますか。(普段はあまりお聞きしないのですが)コンサルを使われた理由、弊社を採用した理由など。
山下:実はですね、私はもともと移民申請は自分でやろうと思っていて、2014年に移民目的でカナダに来た時点で色々調べてはいたんです。ですが今の会社で働き始めて一番最初に思ったことが、“よくわかってないのに自分でするべきじゃないな”ということだったんですね。私の職種は税務局(CRA)とのコミュニケーションが主なので個人の確定申告のシーズンが終わった後は、基本的にお客さんが持ち込んでくるトラブルを解決することになるんです。一番最初のファーストレスポンスの前にお客様に資料を持ってきてもらう場合は問題ないんですが、お客様が自分で一回でもレスポンスをした後、私たちがそのケースの問題を解決しなければならなくなると、かかる時間も見るドキュメントも量が全然かわってくるんです。
それで、これを経験した後は自分で移民申請するのはやめようと思いました。学生ビザやワーホリ、ポスグラは全部自分でやったんですが、PRとなると書類も多くてプロセスも複雑なので、税務申告を自分でやってトラブルに合ったお客様を日々見ていると、自分もこうなったら困るなと思ったのがコンサルタントを使おうと決めた理由です。それで、いろんなところでコンサルテーションを受けて4社目の上原さんとお話したときに、初めてきちんとしたタイムフレームと、あと何が必要かそのステップを明確に示して頂いたのでお願いすることにしました。
QLS:契約されたあとは期待した通りだったですか。
山下:はい、あと毎回レスポンスをすぐにいただけたので不安になる時間がなかったです。
QLS:ありがとうございます。では本題に入っていきますが、先ほどの話にもありましたが、元々移住目的でカナダに来られたんですね。
山下:まずカナダの移民をとって、アメリカにも行きたいなと思っていたんですが(何年か前にはアメリカに行く考えは無くなってしまいましたが)、最初はワーホリできて会社にサポートしてもらえれば1年で採れるかもしれないという記事を読んで、あまりよく考えずに来てしまいました。実際には仕事は簡単には見つからず、サポートしてくれる会社もなかったので、学生ビザをとってカレッジに行くことにしました。2年行っても3年行っても卒業後のワークパーミットは3年下りるので2年のプログラムにしました。
QLS:カレッジでビジネスアカウンティングを選ばれた理由は何でしょうか。
山下:もともと日本の大学で経営学を選択したこともあって、アメリカに留学したときに教養科目でミクロ経済学、マクロ経済学、アカウンティング、ブックキーピング、心理学などをとってたんですが、中でもアカウンティング、ブックキーピングが自分の中でもしっくり来ていて、実際点数も良かったので、アカウンティングを専攻しようと思いました。取得済のクレジットをカレッジにトランスファーできるという利点もありました。
QLS: なるほど、実際にコースの内容、学校生活はどうでしたか。
山下:そうですね。私の場合は冬タームから始まって、夏ターム、秋タームと全部とりました。秋のタームは皆さんがプログラムを始めるので人数が多く、一人一人が先生に細かくみてもらえないというのがあったんですが、冬と夏のタームは人数が少なかったので先生ときちんとコミュニケーションをとることができて良かったです。日本の授業では大教室での授業が多かったですが、こちらは基本的に生徒参加型の少人数のクラスが多いですね。ただ、もちろん授業は英語なので一回わからなくなるとついていくのが大変でした。
あとですね、アメリカもそうだったのですが、こちらはいろんな年代の人がいるので、それこそ40代、50代、リタイアした方とかも一杯いるので、友達になって話しているうちに自分の中で社会的な知識も増えて、日本の大学時代若い子たちがたくさんいたのとは雰囲気がだいぶ違うなと感じました。
カレッジにいた時は20時間まで働けるので、色々なアルバイトもしました。学費を稼ぐ目的もあったんですが、ワーホリ時代に働いていたイタリア系のバス用品のショールームで働いたり、レストランでサーバーの仕事もしました。サーバーの仕事は英語のスピーキングの練習にもなったと思います。
皆に聞いてまわったわけではないですが、私のプログラムは留学生は大体4割くらいで、6割がカナダディアンか既に移民になっている印象を受けました。また、全体としてアジア系、中でもベトナム、韓国、中国出身者が多く、私がとっていたターム中ではどういうわけか日本人は私一人だけでした。
QLS:カナダではアカウンタントにアジア系のバックグラウンドの人が多い印象がありますが、何か理由があるんでしょうか。
山下:そうですね、私のカナダ人、アメリカ人の友人からすると、アジア系は皆数字に強いという印象があるようです。実際、例えばプログラムに統計学の授業があったんですが、やっていることは日本の高校の数A、Bの数列や確率レベルで既にやっていたことだったので、楽に単位が取れましたね。たぶん他のアジアの国出身者も同じだったと思います。
QLS:山下さん自身は数学は得意だったですか。
山下:そうですね。日本で塾の講師をやっていた頃は数1Aくらいまでは教えていたので常に数字には触れていたというのはあります。さすがにアカウンティングのコースをとっていた人で数学は苦手という人はいなかったですね。
QLS:そうですか。ちょっと話はそれますが、数字が嫌いじゃやないということ以外にこういう人はアカウンティングに向いているとかはありますか。
山下:パソコンやソフトウェアを使いこなせることですね。CRAへの正式書類や実際のブックキーピングはもう手で書くことはなくて、どこの会社に行ってもソフトウェアを使っています。またEメールを書くことも多いので、事務職一般に言えることかもしれませんがパソコンが得意でないと辛いですね。一日の80%以上がパソコンを使っての作業なので、さすがに今の職場で新しく雇用された方の中でもパソコンが苦手だった方は残られませんでした。
QLS:卒業後の就職活動について、仕事をゲットする秘訣などについて聞かせてください。
山下:私はもともと在学中にアルバイトで働いていた、小さな会社のアカウンティングのポストをテイクオーバーできる予定だったので、特に卒業後の進路は考えていなかったんですが、最終タームに学校でストライキがあり、そのために試験も卒業も遅れて結局そのフルタイムのポストをとることができなくなってしまいました。それで、ばたばたと就職活動を始めたのですが、私の学校は卒業生のための就職ウェブサイトを持っていて、私の友人でも10人くらいがそのサイトを通じて仕事を見つけたようです。
私はその求人サイトとIndeedとLinkedInを使って会社を調べて応募していました。面接は一か月に1、2回は行きました。1月に卒業したあとすぐにポスグラ(卒業後の就労ビザ)を申請して3月半ばにおりたんですが、それまでに何社も面接して一番最初に聞かれるのは、“ステータスは?”っていう質問でした。それで“ポスグラ申請中です”というと、“ポスグラ下りるの?”、“おります”、“いつ下りるの?”、“もうすぐ下ります”、“じゃあ下りてから来て。”と言われて終わることが何度かありました。
そこで皆さんにお勧めしたいのは、学校が終わったらすぐにポスグラを申請することです。ほとんどの会社ではポスグラが下りてから戻ってくるように言われます。ただ、ポスグラがおりてから連絡しても既に決まってしまっている場合も多いのです。また、逆にポスグラが下りていないのに大丈夫、大丈夫というところは逆にちょっとグレーな会社かなとも思います。就活はそろそろポスグラが下りるかなというタイミングで始めるのがいいかもしれません。
あとはですね、学校内でコネクションを作っておくことが大事だったなと思います。同じクラスをとっていた生徒たちもやはり就職活動をするので同じような条件で探しているんですね。会社によってはスポットは一つだけではなくて2つとか3つ募集している場合もあるので、誰かが最初のスポットをもらって、そこに紹介で一緒にキックインしたクラスメートもいました。
私はとにかく経験を得るために無給のインターンでもいいからスポットがあったら声をかけて、と元クラスメートたちにお願いしていたのですが、その中に私より2ターム先に卒業したクラスメートから、“まだ仕事探してる?”と声をかけてもらったんですね。彼女が働き始めた会社の職員の方にマタニティーリーブの方が出たということだったので、早速インターンでもいいのでと面接に行きました。でもそのとき、社長がインターンじゃなくてもいいよ、と言ってくださってあっけなくフルタイムの仕事が決まりました。それが今も働いている会社です。
色々自分でリサーチもして就職活動もしましたが、結局決まったのは人づてだったので、やはりコネクションが大切だと思いました。こちらの文化は割と皆オープンでフレンドリーなので、友達になってフェイスブックなどで繋がると集まってくる情報の量も全然違ってくることを実感しました。
QLS:現在の職場の仕事内容について教えてください。ちなみにパンデミックということもあって仕事はリモートですか。
山下:私は基本的にずっとオフィスで働いています。2月の終わりから6月半ばまでがハイタックスシーズンと呼ばれていてパーソナルタックスを準備する時期なので、その期間は基本的に全員オフィス出勤になります。オフシーズンは先ほども言ったように個人のお客様が持ち込んでくるCRAのドキュメントへのレスポンス、そしてこの時期(だいたい6月から2月)に、法人、スモールビジネスオーナーのお客様のブックキーピング、アカウンティングを行っています。オーナーが持ち込まれたドキュメントをひたすら読み込み、ソフトウェアに打ち込み、出来上がったファイナンシャルステートメントから法人の確定申告(コーポレートタックス)を準備します。オフシーズンも一部例外はありますが、基本的にお客様の持ってきたドキュメントを自宅に持ち帰らないというのが会社のルールになっているのでオフィスで仕事をしています。
QLS:お客はいまだに紙で持ち込んでくるのですか。
山下:中にはEメールでスプレッドシートなど送ってくるお客様もいますが、オフィスでは印刷して書き込んで、オフィスコピーをとってということになるので、結局紙を扱うことになります。それと、こちら特有の言語だと思うんですけど、“シューボックス(靴箱)アカウンティング”と呼ばれているんですが、空の靴箱や段ボール箱にどばーと無造作にレシートを貯め込んであって、それを何箱も持ってくる人も多いんです。全く分類されていない時系列にもなっていないレシートを一点一点確認する作業からはじまります。もちろん大きな会社になると経理担当の人がある程度資料を作っておいてくれて、それをベースにファイナンシャルステートメントを作るところから始まったり、ファイナンシャルステートメントを持ち込まれる場合もあります。あとはそれをコーポレートタックスリターン用にアジャストします。
QLS:ありがとうございます。だいぶイメージが掴めてきました。山下さんを含めて会計職についた後のキャリアパスはどうなりますか。
山下:2年のカレッジを卒業すれば一応会計事務所の仕事には就けると思いますが、そのあと会計士(CPA)になるにはかなりのステップが必要です。まず最低でもバチュラーデグリーを取って、数年の経験を積んだ上でCPAのテストにパスしなくてはいけません。CPAの試験に通るためにはマスターまで取った方が良いと言われています。学校によってはマスターの最終試験がCPAの試験を兼ねている場合もあるそうです。それで私も今はまだContinuing Educationで少し知識として足りない分野を補なったりしていますが、ゆくゆくは仕事をしながらパートタイムでマスターのコースを履修したいと思っています。
QLS:最後の質問になりますが、これから移民を目指す人にアドバイスはありますか。
山下:そうですね。会計職で移民を取りたいという人は、先ほども言ったようにとにかくコネクションを作ること。それと、アンテナを張り廻らすことを強調したいですね。基本的に税務署のルールが頻繁に変わるので常にアップデートが必要になります。それこそ申請方法が変わったり、計算方法がかわったりということが頻繁におこります。
最後に、本当に本当に言いたいことは、自分で移民申請をしない、わからないなら自分で確定申告をしない、ということでしょうか。
QLS:今日は会計職に限らず、日本からカナダに移民し新しいキャリアを切り開きたいと考えている方にとってとても参考になる話をお聞きできたと思います。長時間にわたりありがとうございました。