カナダで活躍する日本人、第22回目はソーシャルサービスワーカーとして働く金子真実さん(以下敬称略)をご紹介します。
金子さんは数年前弊社のサポートを受けられた時には、コミュニティーセンターで調理師の仕事をしておられましたが、カナダ永住権取得後は一旦カレッジに戻り、新しいスキルを身につけ、現在はホームレスシェルターや老人ホームを拠点に活動されています。ニューカマーとしてカナダにやってきて、どうやってサバイブされたのか、これからカナダで新しいキャリアを築こうとされる方にとって大変参考になる話だと思います。
QLS: まず 初めてカナダに来られたいきさつを教えてください
金子: 海外に出たいという気持ちはずっとあったんですがなかなかチャンスがなくて、25歳の時に1年間限定のつもりでワーキングホリデーを使ってカナダに来ました。ただ正直なところ当時はトロントは全然好きじゃなくて、それで、もう少し好きになれないかなと思って滞在を延長することにしました。(笑) ワーホリ時代は日本食のファーストフードで働いていたのですが、同僚にカナダ人や移民の人も多くて、こういう人生もあるんだなと思いました。
QLS:その後カレッジでカルナリー・ニュートリション・マネジメントのコースを選ばれたのですが、これはどのような理由からですか。
金子: カレッジに行くと決めた時には移民も視野に入れていたのと、当時レストランで働いていて、料理を作るのが意外と好きだったというのがあります。それと2011年の震災の時、私は日本で不動産賃貸の仲介の仕事をしていたのですが、私の知り合いは手に職があってボランディアに行くとか、看護師や警察官として仕事で現地に向かう人達も多かったんです。震災の翌日、皆が震災現場に向かうと言っているさなかに何で私は部屋の仲介をしているんだろうとふと思い、自分には何も手に職がないことをもどかしく感じました。栄養学をバックグラウンドに持つ調理師になれば、炊き出しとか人の命にかかわる仕事もできる思い、カルナリーの中でも栄養学にフォーカスしたコースを選びました。
QLS: それで、卒業後は普通のレストランとかではなく、コミュニティーセンターを職場に選ばれたわけですね。実際働いてみた感想はいかがでしたか。
金子: 私が働いていた職場は老人のレジデンスだったんですが、精神的か肉体的にチャレンジのある人を受け入れるセンターで、もともとドラッグ中毒者だったり過去に何かしらのトラウマを抱えて心を病んでいる人が多かったので、最初はちょっと衝撃がありました。ただ実際には、レジデンスの老人と直接触れ合う機会はあまりなく、食事の配膳はダイエタリーエイドと呼ばれる人たちの仕事だったので、直接接するのはパーティーの時とかに限られていました。
QLS: 金子さんはその職場の調理部門で働いでいる間に永住権を取得されて、その後またカレッジに戻られたわけですが、これは何か理由があったんでしょうか。
金子: 調理師の仕事だとキャリアップに限界があるんですね。シェフになるしかなくて、じゃあシェフになりたいのかと自問したときに、特になりたいわけじゃなかったので、調理師としての道を突き詰める考えはありませんでした。むしろ、老人ホームで裏方として働く中で、もっとダイレクトに人をサポートする仕事につきたいなと思いました。それと、仕事を続ける中でいずれマネジメントの仕事につけるようになるには、もう一度学校に戻らないとキャリアアップは望めないと思っていました。
QLS: 具体的にはどういったことを学んで、現在の仕事にどう生かされていますか。
金子: カレッジではソーシャルサービスワーカーのコースをとりました。ソーシャルワーカーとの違いは、ソーシャルワーカーが診断、カウンセリングを中心とするのに対して、ソーシャルサービスワーカーは、フロントラインで直接クライアントをサポートするので、仕事の範囲はかなり広いです。現在私が老人ホームで行っている各種アクティビティをファシリテートするリクレーションエイドの仕事も、ソーシャルサービスワーカーの資格があるとできるようになります。エクササイズのプログラムやクラフトのクラスなど楽しくやっています。
QLS: なるほど、かなり仕事の幅が広がりましたね。金子さんは現在3つの仕事を掛け持ちということですが、他には何をされていますか。
金子: 特別養護老人ホームでキッチンの仕事も続けています。この調理師の仕事はまさに手に職なので、カレッジ卒業後の就活中も食いつないでいくことができ、やっておいて良かったなと思っています。
もう一つは、100人の収容能力のあるホームレスシェルター。こちらは若い人から老人まで男女の区別なく、ペットセラピー用の犬や猫も一緒に住んでいますが、そこで、Outreachと Respite supportの仕事をしています。Outreachは、主に外で働くのですが、コミュニティーとシェルターを繋げる橋渡しの役になります。地域の住民からシェルターについて苦情があったときに現場に出向いて説明し住民に理解を求めたり、私たちのクライアントがシェルターの外で寝泊まりしたりドラッグをしたりするので、現場に行ってシェルターに戻るように促し、使用済の注射器を片付けるといった仕事もあります。Respite supportの方は、シェルターの中のフロントデスクの役割で、新しいクライアントの受け入れ、チェックイン、ランドリーの手伝いから食事のサービングまで行っています。
QLS: 素人ながら、カナダではドラッグ依存症の人を法律で罰するのではなくて、救済することにフォーカスが置かれているように感じますが、実際の現場はどうなんでしょうか。
金子: 本当にその通りです。コンプライアンスの問題があるので詳しくは話せませんが、私たちの職場ではクライアントにドラッグは与えることはありませんが、クリーンな注射器のキットを渡すことはあります。何しろ禁断症状で死んでしまったり、注射器の使いまわしでHIVに感染するのを防がなくてはならないので、社会的に批判はあるとは思いますが、やむを得ないと思っています。私たちの方からドラッグを強制的に止めさせることはできないので、医師や看護師の常駐するSafe Injectionサイトに行くように促すのも私たちの仕事です。ドラッグを止めるためのリハビリテーション施設がありますが、自分から行きたいと言わない限り紹介しないのが私たちの施設の方針です。
私たちのシェルターは殆どがドラッグ中毒者なので時々隠れてドラックを手に入れては、オーバードーズ(過剰摂取)で倒れてしまうことが日常茶飯事に起こります。そういう時は飛んでいって薬(ナロキサンキット)を投入して、意識不明の状態から意識を回復させるのも私たちの役割ですが、正直この仕事をしていてこれが一番ショッキングです。
QLS: お話を聞いていると日々戦いのような感じで、メンタルにタフでないとやっていけない仕事のような気がします。金子さんにあえてここが自分の職場だと思わせるモチベーションは何でしょうか。
金子: 実はカレッジ在学中はホームレスやドラック関係の仕事に就くとは全く思っていなかったでのですが、卒業後になかなか仕事が見つからない中、たまたまOutreachとして採用されたのが今の職場です。その後、施設の中の仕事もするようになり、毎日毎日クライアントと接していると、社会から疎外されて来ている人たちなのでコンパッションを感じるというか、自分もニューカーマ―としてカナダに来たので、その時感じた疎外感とか共感できる部分があったりします。時間が空くといつもクライアントと話をしているのですが、多くの人が家庭環境に問題があったり、ちょっとした出来事がきっかけでドラックやアルコールに走ることも多いんですね。シェルターの住人は、ただで食事もシャワーも浴びれるので居心地がよくなり、なかなか出て行かなかったり、シェルターを転々とする人が多いのも事実です。だだ、数は少ないですけど、クライアントが家を見つけてシェルターを出ていく決意をしたり、ドラックを止めてトリートメントセンターに行く決意をしたり、シェルターの中でボランティアとして自発的に何かしてくれたりとか、何か前向きな変化が見られた時は嬉しいですね。
QLS: あまり普段聞くことのできないお話をたくさんありがとうございます。最後にこれからカナダでキャリアを作っていきたい人たちに何かアドバイスはありますか。
金子: 自分もあまり偉そうなことは言えないんですけど(笑)、自分のことをよくわかって、どういう人生を歩みたいのかよく考えた上で、それでもカナダにずっと住みたいという人は、常にフレキシブルになることが必要かなと思います。つまり何か一つうまく行かなくてもプランBを常に持っているのがいいと思います。私の場合はクックの仕事が常にプランBなので、仕事を失っても何とか食いつないでいけるという安心感があります。そういうものが一つあると異国では生きていきやすいかなと思います。私たちは日本で育ってきて同時に複数の仕事をやるということが頭の中にないじゃないですか。でもカナダでは何をやってもいいので、フルタイムじゃなくてもいいし、フレキシブルにやれることが、私たち外国人がサバイブする上で重要だと思います。
あと、我慢するときは我慢が必要。全部をすぐに手に入れることはできないので。例えば私が永住権を取ったときは、とにかくまず永住権をとってから好きなことをやろうと決めていました。自分が本当に欲しいものを手に入れるためには、我慢する時期も必要だと思います。給料が低くても次のステップに向けて我慢して積み重ねていけば、私もまだ途中ですけれども(笑)、必ず道は開けてくると思います。
それから、私たちは英語は第一言語ではないので、どこの職場に行ってもキャリアップすればするほど、英語を第一言語として生きている人たちの中に揉まれないといけないじゃないですか。なので、言葉ではなく、他で強みを持っている人が仕事を得ていきやすいと思います。私も仕事がなかなか見つからない時は本当に辛かったし、カナダに来たばかりの時は右も左もわからずたくさん辛い思いをしました。ですが、今はこの国が好きだと言えるようになったと思います。この国では自分で自分の人生をデザインできる感じがしています。
QLS: 最後に素晴らしいメッセージをありがとうございました。
<インタビューを終えて>
個人的に興味のあったカナダのシェルターの実態についての話をききながら、頭の中で作り上げたイメージが実際とどこまで一致しているのか未だに自信がありません。でも、金子さんの社会からの疎外感を持つ人にコンパッションと共感を感じるという部分は、とても理解しやく、私自身もなぜ今この仕事をしているか、その原点を改めて思い出させてくれました。