カナダで活躍する日本人、第18回目は2018年1月までトロント日本語学校(TJLS)の校長を務められた深田洋子さん(以下敬称略)をご紹介します。深田さんは障害を持つお子様を同伴して永住権を取得、弊社ではこの度、お子様の市民権申請をサポートさせて頂きました。今回は障害を持つお子様がどのような経緯で渡加し、市民権取得に至ったか、またカナダは障害者をどのように受け入れているのかを中心にお話しをおうかがいしました。
QLS:お子様の市民権取得おめでとうございます。市民権取得まで色々とご苦労されたかと思いますが市民権申請までのいきさつを教えてください。
深田: まず2015年頃に私の息子をサポートしてくれる障害者の団体が市民権の申請書を代理で提出してくれるということで、書類を全部お渡しして申請をしたのですが、残念ながら書類不備で戻ってきてしまいました。今度は自分で申請しようと準備をしていたのですが、息子が34歳だったため、市民権の試験を受けなくてはならないということが分かりました。サポート団体は息子が試験を受けても通るだろうと言ってくれたのですが、息子のお世話をしてくださっているフォスターファミリーが、もし息子が質問に答えられない等でフラストレーションを溜めると良くないということで、試験を受けずに市民権を取る方法を取りましょうということになりました。その際、専門家のアドバイスがないと難しいのではないかと思い、以前より上原さんを知っていたので、QLSeekerに依頼しました。
QLS: 試験が免除になり、申請は少しスムースに進んだのでしょうか?
深田: 実は試験が無い代わりにインタビューがあったので、ハミルトンの移民局に行ったのですが、抜き打ちで市民権の口頭試験がありました。ハミルトンのオフィサーの話だと、ここで通ればオタワに行かずにすぐ市民権を取ることができるので、ご厚意でして下さったようです。しかし、私もフォスターマザーも全く準備をしていなかったので動揺してしまい、質問に答えることができず、結局はオタワまで書類を送ることになりました。ハミルトンでのインタビュー後は1ヵ月で無事市民権が取れました。
QLS: 市民権のセレモニーにご一緒に参加されたようですが、会場の雰囲気はいかがでしたか。
深田: ハミルトンのオフィサーは障害者にとてもやさしく、セレモニー参加の際、息子の名前と顔を覚えてくれていたようで、息子を気遣って良い席に座らせてくれ、一番先にに名前を呼んでくれました。途中退席しても構わないとのことでしたが、息子も最後までいたいとのことだったので、最後まで出席し楽しい時間を過ごすことができました。
QLS: 市民権を取得できたことについてお子様の方は喜ばれていらっしゃいましたか?
深田: そうですね。本人は自分はもう既にカナダ人だと思っていたようで、ハミルトンのオフィサー達がおめでとうとお祝いに来た時もきょとんとして「僕、今までカナダ人じゃなかったの?」と言っていました。本人はあまり実感がなかったようですが、今日から本当にカナダ人になったのだよと伝えました。
QLS: カナダには様々な障害者サポート団体があると思いますが、そちらのサポートは受けられていらっしゃいますか。
深田: 私たちの場合はとてもラッキーで、2つの団体がサポートをしてくれています。Community Living Hamiltonという団体は母親である私の方を積極的にサポートしてくれ、息子の方はChoicesというサポート団体がフォスターファミリーの中で過ごすプログラムに参加させてくれる等、様々なサポートをしてくれています。
QLS: 市民権取得の前に永住権の取得もされていると思うのですが、そちらのプロセスはスムースに進みましたか?
深田: 正直そちらの方が市民権よりも大変でした。まずカナダに来ようと思った経緯ですが、日本の職場で客員教授として来ていたカナダ人の教授の奥様と仲良くなり、その方がシングルマザーで障害者の子供を育てている私に、カナダに行ってみてはどうかとアドバイスをしてくれました。大学院に入ると学生ビザでカナダに入国できると聞き、たまたま私は理学部の化学科を卒業していたので、学業から15年程ブランクがあり躊躇しましたが、客員教授のご家族のサポートもあり、マクマスター大学の工学部の大学院に入学することに決めました。1993年に両親はリタイアメントビザで入国し、私と息子は学生ビザで入国しました。1995年に専門職枠での移民ビザを申請しましたが、息子が障害者の為却下されてしまいました。周りの学生さんたちは純粋に工学を勉強したい人ばかりだったのですが、私はカナダに残るために大学院に通っていたので、途方に暮れてしまいました。その際、教授に私なら博士号取得も可能だと言われたので、博士号課程に進み、4年間の学生ビザでカナダに残ることを選びました。
その間母は他界し、父は日本に帰国してしまったので、私は博士号取得のために大学に通いながら障害者の息子を育てるシングルマザーとして大変な生活をしていました。そんな中、障害者団体のCommunity Living Hamiltonが「こんなにカナダにいたい女性が息子が障害者だからと移民できないのは間違っている」と移民局に掛け合ってくれたのですが、やはり障害者は受け入れられないと却下されてしまいました。その後、障害者専門の移民弁護士に相談したのですが、3年間何も行動を起こしてくれませんでした。博士号取得後、マクマスター大学で働いていた時に今の夫と知り合い、結婚をすることになりました。結婚後は氷が解けるように今まで立ちはだかってきた問題が解決していきました。結婚後一年以内に息子の障害も問題にならず永住権が取れました。息子の精神鑑定は必要でしたが、結婚というのは移民申請に対し、ものすごく効力を持つものなのだなと感じました。
QLS:日本とカナダの障害者に対する環境の違いについてどのように感じられますか。
深田: 日本とカナダの一番の違いですが、日本では障害者を持つ家族の負担が大きいのに対して、カナダはかなりの部分を「政府」あるいは「コミュニティー」が負担してくれる点にあると思います。例えば、日本は障害者を持つ親や協会が団体を作って最終的に国に申請をし、非営利団体として認定してもらう形なので、親の負担がとても大きいです。学校も先生によっては差別する人もいますし、お医者さんも比較的冷たい方が多いです。そのせいで息子が登校拒否を起こしてしまい、私もすごく苦労しました。その時に先ほどお話しした教授婦人と出会い、その方がカナダのスペシャルエジュケーションに繋がりのある方とコンタクトを取ってくれました。カナダの校長から直接息子を受け入れると直々に手紙をくれた時には大変驚きました。
QLS: 校長先生から直々に(それも海外に住んでいる人に)連絡が来るというのは日本ではあまりないことですよね。お子様の学校生活はいかがでしたか。
深田: そうですね。今でも思い出すのは、息子が初めて通ったカナダの学校の校長に「今日から謝ることはやめなさい」と言われたことです。「息子もあなたも悪くない、全ては病気のせいなのだから謝る必要は一切ない」「親が威張らないと子供がかわいそうだ。息子が社会に適応できずに謝ることはあっても、親が代わりに謝る必要はない」という言葉が心にずしんときました。もちろん、皆が皆このような人ばかりではありません。息子は障害があるものの学力は高いので普通高校に行くのはどうかとアドバイスを受け普通高校に入学させたのですが、そこの学校の先生方には理解のない人が多かったため、教育委員会が間に入って違う高校に転校することになりました。
QLS: 深田さんは日本とカナダの両国で子育てを経験されたわけですが、今までを振り返ってみてカナダを選んでよかったと思われますか?
深田:カナダの良いところは障害者に対するシステムが整っている点です。正直いえばスタッフだけをみると日本人の方が勤勉で熱心だと思います。カナダのスタッフは仕事としてやっている部分があり、日本人のように本当に障害者の為というよりはお金のために働いている人が多いと感じます。ただ、きちんとした国のシステムがあるので、うまくそのシステムに乗れば、カナダでは障害者は親がいなくても一生困らないのではと思います。私はカナダと日本の自閉症協会に入っているのですが、日本の自閉症協会で講演をした際、日本の皆さんがカナダのシステムは日本と違いあまりにも進んでいて、言葉が出ないと言っていました。一方、カナダの自閉症研究をされているお医者さんには日本は研究がとても進んでいると聞かされました。カナダは研究は遅れている分システムが進んでいて、日本は研究は進んでいますがシステムが遅れているのが今の現状なのだと思います。
QLS:カナダは日本と違い、障害者の方が積極的に一人で外出をしたり、堂々とされていますよね。そのような姿を見てどう思われますか?
深田:そうですね。以前車椅子の方が自宅から自分がよく行くお店まで、バリアフリーの設備が整っていないと抗議しているニュースを耳にしたのですが、カナダで素晴らしいと思うのは、障害者の方が自分の権利を堂々と主張しているところですね。そういうのを見るとかっこいいなと思います。
QLS: さて、話題は変わって今度はトロント日本語学校の方ですが、日本語教育の現場の最近の傾向を教えてください。
深田:以前は両親が日本人の子供たちが日本語を学ぶために集まる場所だったのですが、最近は両親やバックグラウンドは関係なく、日本のアニメや映画などに興味のあるカナダ人が日本語を学びたいと来ることが増えています。アニメノースなどのイベントもトロントで開催されているので、近年はアニメの力がすごいなと感じます。言葉の意味は分からなくても、アニメのセリフや音楽等で「音」で日本語を覚えているティーンエイジャーも多く、驚かされることが多かったです。日本の伝統文化や歴史に興味がある人も非常に多いですし、日本の政府が英語の教師を募集しているので、英語教師として日本に行きたいという人も多いです。また、2020年に東京オリンピックが開催されるので、日本語ブームが再来してきているように感じます。
QLS:トロント日本語学校の校長を退任されましたが、今後のトロント日本語学校に望むことはありますか。
深田:トロント日本語学校に望むことは、今まで68年間、日系二世が強い熱意を持って作った学校なので、単なる「語学学校」になるのではなく、素晴らしい日本の文化・習慣を伝えていく学校になって欲しいということですね。
QLS:そうですね。ただ単に言葉を習得する手段であれば今の時代、インターネットなどでいくらでも探せると思うのですが、日本の文化や習慣も含めて学べる場所は少ないので、歴史のあるトロント日本学校の日本語プログラムはとても貴重だと思います。
(インタビューを終わって)
市民権申請のお手伝いをしてる時から、是非当事者である深田さんからカナダの障害者の問題についてお話しをお聞きしたいと思っていましたが、今回念願がかないました。深田さんは市民権よりも永住権申請で大変苦労をされましたが、現在カナダ政府は健康問題、障害を抱える人を家族に持つ申請者の、移民申請を制限する移民法条項の抜本的な見直しに入っているので、今後この条項があるために永住権申請を諦めていた人にもチャンスが巡ってくると思います。また、日本語教育についてもお聞きしました。震災後に日本語を学ぶ生徒が一時激減したように思いましたが、東京オリンピックに向けてまた盛り返したきたという話は大変嬉しく感じました。