カナダで活躍する日本人、第26回目は約5年前にケベック州の自営業者カテゴリーで永住権を取得し、現在ケベック州の東の最果ての街、ガスペで吹きガラス工房を営む小宮辰巳さん(以下敬称略)をご紹介します。小宮さんのことは地元メディアQuatre95にも取り上げられています。
QLS:大変お久しぶりです。今日は時間を取っていただきありがとうございます。まずガラス工芸に興味を持たれたきっかけは何だったでしょう。
小宮:高校生の頃にたまたま家の隣に吹きガラス工房があったので、そこで講座をとり始めたら面白かったのでそのまま続けてきた感じです。
QLS:それで高校を卒業されてからすぐにフランスに留学されていますが、その当時からもう自分はこの道で食べて行こうと決めていたんですか。
小宮:そうですね、割と好きなことはとことんやるタイプなので。日本にもガラス学校とかあったんですが、高校の頃からフランス語をちょっとずつ勉強してたのと、フランスのそのガラス学校はそれほど学費も高くなかったので行ってみようかなと思いました。
QLS:フランス語も高校の時から勉強されていたんですね。
小宮:そうですね、まあその頃は日本ではフランス語をしゃべる機会はなかったので、文法くらいは勉強しましたけど実際はそんなに喋れませんでした。
QLS:フランスでの留学生活はどうでしたか。
小宮:学校生活は全然問題なかったですね。学校があったのは、人口が500人くらいのすごい田舎の街で人と人とのつながりが強かったのと、あと同じガラスという素材を学ぶ者同士だったので共通点があってすごく楽しかったです。ガラス工芸の学校自体が少なくて、東ヨーロッパに一つ、西ヨーロッパだとその頃はその学校しかありませんでした。
QLS:ガラス工芸の学校を卒業された後はどうされましたか。
小宮:フランスのガラス工芸の学校を出た後は、そのまま独立してやっていくには力も足りず、フランスでビザを獲得するのも難しかったので、一度日本に帰ってもう一度勉強し直すことにしました。その2年後フランスのアーティストビザを申請してフランスに戻りました。フランスでは、国自体がアーティストをサポートしているので、色んな補助金とかもありましたし、活発に創作活動を行うことができました。展示会に数多く出展しました。
その後、北米に拠点を移すことを考えていて、最初はフランスの友達にマイアミに行かないかと誘われてそのつもりで準備をしていたらその計画が頓挫してしまったので、他の選択肢を探していたところ、フランス語を話すケベック州に自営業の永住権のカテゴリーがあるのを知ってそれを選択することにしました。
QLS:永住権取得後はモントリオールではなくガスペに移住されましたが、その理由と実際に住まわれた印象について教えてください。
小宮:もともとカナダで工房を立ち上げたくて移住しようと思ったんですが、ケベックだとシャルボアとかモンブラン、モントリオールから東の地方を探索してみたんですが、どこも綺麗な場所で良かったんですけど単純に不動産が高くて。それでガスペはすごく有名なんですけこれらの街に比べると生活費が安いですし、本当に海のすぐそばなのでここにしようかなと決めました。
ガスペは本当にケベックの人からしても遠い場所で、地の果てみたいな感じですが、一生に一度行ってみたい場所のランキングにも選ばれたりしています。夏はたくさん観光客が来ますが、冬は静かでバランスがいい感じですね。ここに住む結構な数の人が夏の間だけ働いています。私も6月から9月に1年で稼ぐお金の大半を稼いでいます。
QLS:なるほど。ビジネスとしてはどういうことをされていますか。
小宮:今は吹きガラス作品を作ることと、アトリエはパブリックにオープンしていますのでお客さんがきたらデモンストレーションもしますし、講座を開いて教えたりもしてます。小さい工房ですのでできることは何でもやっています。
創作物としては、夏は一弦のお客さんも多いですし、お土産で買ってくれたりもしますので割と小さ目のものを作ります。10月以降はお客様も少なくなるので自分の作品を作る感じですね。もっと大きかったり、もっと手の込んだものを制作します。
吹きガラスが他のアートと違うのは、一人だと大したことができなくて、殆どかならず一緒に作業する仲間が必要なんです。仲間がいると仕事はしやすいのはどの仕事でも同じだと思いますけど、吹きガラスは物理的に必要になります。その上で長年一緒に働いている人だとやりやすいなと思います。そういった意味でも妻と一緒に仕事ができるのはラッキーです。
QLS:街に小宮さんたち以外に日本人はいますか。
小宮:日本人はこの町で私と妻だけです。なので、町の人たちは皆私たちのことを知っていてこっちが知らなくて、”最近どうだった?“とか話しかけれても誰だったかなこの人?ということがよくありますね。地元の人もスモールビジネスを応援するという感じでよく工房に来てくださり作品を買ってくれたりもします。
QLS:工房を立ちあげるにあたって苦労した点はありますか。
小宮:ケベックというかカナダ全体がそうなんですが、まず吹きガラスをやっている人が少ないので、法律的に吹きガラスの工房を立ち上げる時にインスペクションとか承認作業が必要になってくるんですが、それがすごく面倒でコストもかかります。例えば同じことを日本とかフランスでやるとしたら2分の1とか3分の1の費用で済むんですが、一つ一つインスペクションをしていくとどんどん値段が上がっていくし、そこは吹きガラスとカナダはちょっと合わないなって思いました。
設備はアメリカから買ったりしてるんですが、アメリカからプロフェッショナルなものを購入してもアメリカの規格とカナダの規格がちょっと違ったりするので、いちいちもう一回検査をしなくてはいけないんですね。
もちろんそれ以外も色々な障害はありますが、もともとこの仕事はそんなに簡単ではないのはわかっているので楽しみながらクリアしています。
QLS:仕事以外の生活面はどうですか。
生活一般についていえば、こちらは田舎ですし海のすぐ近くなのでのんびりというか、生活のリズムを大切にしながら生きてる感じです。やっぱり自然が多いし自然が雄大ですし、私の街から10分くらいのところにスキー場もあります。海辺での散歩なりハイキングなり自然でのアクティビティーには全然困らないですね。ゆったりとした気持ちで毎日を過ごすことができます。
一つ気にかかるのは食べ物です。フランスや日本に比べて、カナダはおいしいんですけど種類が少ないというか、まずアジア系のレストランは全くないですし日本食も手に入りません。住んでいる人がケベック人オンリーなので。
QLS:今後もガスペに住み続ける予定ですか。
小宮:もともと北米に来たいと思ったのがこちらの文化を知りたいからというのがあったんですが、アジアの中の日本で育ち、ヨーロッパの中のフランスにしばらく住んで、その後北米のカナダに移ったあとは、ひとまず10年くらい住んでみようと思ってますが、その後のことはまだ決めてないです。吹きガラスというのは技術的には世界どこでも一緒なのでここで良い作品を作ることができればどの国に行っても通用すると思っています。
QLS:最後にカナダ移住を目指す人たちへのメッセージをお願いします。
本当に好きだったり移住したいと思っていればかなえられると思います。“Never Give Up“ですかね。
<インタビューを終えて>
モントリオールからセントローレンス川に沿って東に進むにつれて英語が段々通じなくなっていきます。ケベック州のある田舎町のスーパーで焚火に使うための薪(firewood)はどこにあるのかと聞いたら、店員は何のことか全く理解できず、他の店員を呼んで“彼は何を欲しがっているのか”と相談を始めました。それでもわからず、その後数人のレジの人たちも巻き込んで一体このアジア人は何を探しているのだろうかと真剣に議論を始めたのにはびっくりしました。ケベックの田舎の人の優しさを感じたことを、小宮さんのガスペの話を聞いて思い出しました。