カナダで活躍する日本人、第20回目はケベック州モントリオールのVocational School の Residential & Commercial Drafting コースを2017年春に卒業し、ケベック移民プログラム(PEQ)から2018年夏に永住権を取得、現在、学んだことを生かしてモントリオールの建築事務所に勤務中の尾崎優さんをご紹介します。今回はPRカード取得直後の尾崎さんにモントリオールでお会いし、直接インタビューを受けて頂きました。
QLS:まずPEQですが、今回途中でルールが変わってインタビューに呼ばれるようになったりしましたが、尾崎さんはそれをどう乗り越えましたか。
尾崎:2016年の冬くらいから移民局のインタビューが始まったと思います。当時はVocational School卒業半年前にはCSQの申請書を提出できたので、クラスメートの中には既に申請していてインタビューに呼ばれた人もいたのですが、その頃のインタビューまだ簡単でほとんどの人が受かっていました。ところが、2017年になったらいきなり厳しくなってほぼ全員落ちるようになったので、私の周りもかなりのパニックでしたね。学校ではその話でもちきりで、特にアジアの大国や日本の近隣国からの生徒は数も多くネットワークが発達しているので、嘘の情報や憶測も飛び交って一体何が正しい情報なのかわからない状況でした。本当に情報に振り回されるというのはこういうことなんだな(笑)と思いました。私の場合は2016年春にTEFAQをとっていたのですが、TEFAQがあったらインタビューに呼ばれないという保証もなく、こうした状況になってからのケース数が少ない中で、QLSさんを含めてエージェントさんはどう対処すべきかアドバイスするのが難しかったと思います。私は(QLSの)亀谷さんにインタビューのシミュレーションをお願いし、その時に“僕だったら思い切って申請しますよ。”と言って頂いたこともあり、インタビュー覚悟でCSQの申請に踏み切りました。CSQ申請後はインタビューに備えてこういう質問が出たらこう答えようとしっかり準備していました。
QLS:でも尾崎さんの場合は結局インタビューはなかったですよね。
尾崎:はい。幸いなことにインタビューもなく、さらにCSQを申請してから結果が出るまでがとても早かったです。(基準となるプロセスタイムである)20日間でCSQが発行され、連邦政府の申請も政府のウェブサイトに書いてある通り13か月でCOPRが発行され、PRカードが手元に届くのに2か月、これもきっちり合っていたので、電車も時間通りに来ないカナダでこんなに時間通りに物事が進んだのは初めてでびっくりしました(笑)。
QLS:話は遡りますが、初めて尾崎さんとスカイプでお話したときに日本で大手外資系銀行でしっかり仕事をされていたので、正直途中でキャリアをストップされるのは勿体ない気がしました。ただ、最終的に決断するのはご自身なので、やりたいことがあるなら挑戦してみては?などと気軽にアドバイスしてしまいました(笑)。
尾崎:もともと学生の時から海外で働いてみたいという気持ちがあって、一年間大学の時に交換留学でフランスに住んでいたんですけど、結局就職活動の時に相性のあった銀行に就職し、当時は楽しくやっていました。仕事にもお客様にも職場の同僚にも全く不満はなかったのですが、その銀行が日本市場を見切って撤退することになったので、これは海外に踏み出すいい機会かなという思いがありました。当時香港、シンガポールで銀行の求人はいくらでもあったし日本の銀行に転職する道もあったのですが、2015年6月の休暇中にカナダについて色々調べてみてPEQから永住権を取得するパスを知り、これは良さそうだと、7年間使っていなかったフランス語を勉強し直すいい機会にもなるかなと思いました。QLSさんだけにまず問い合わせしてみて、川島さんや上原さんと話した後に私の第六感からこれはGOだ(笑)と決めて、休暇明けに会社に退職の旨を伝えました。その後1か月で引き継ぎ作業して、8月は準備期間、同年9月に渡加しました。
QLS:一旦決めると行動が早いですね(笑)。
尾崎:そうですね。予め沢山調べて色々な可能性を考えた上で自分にはこれだと思ってやってみても例えば今回のようにPEQが途中で色々システムが変わってしまうというようなことになったりもするわけで、やってみなければわからないというのは正直あると思います。
QLS:尾崎さんはフランスに一年留学されていて、今回同じフランス語圏のモントリオールに留学されたわけですが、日々どういう感じで生活を送られましたか。
尾崎:そうですね。交換留学生の時は学生なので親からの仕送りもあり、1年の期限付きで本業の学生としてきちんと成績を残せばあとは自由の身という感じだったですが、今回はこれから続いていく自分の人生のいわゆる底(ベース)の部分が決まっていくので、その点で感覚的には全く違いましたね。最初は学生でもそこから次につなげることが大切なので、学校の授業にしてもしっかり身に付けていこうと思いました。
QLS:そうですか、移民の手段と割り切って手を抜く生徒さんも多い中、尾崎さんは真剣に勉強をやられたのですね。
尾崎:そうですね。まあ自分で決めたことだったので、とりあえず一所懸命やれば何かついてくることはあるかなと自分の仕事の経験から思っていました。例えば、大きな会社で人事異動があると自分の思うような人事異動がいつもあるわけではないので、とりあえずその場で頑張ってみるという姿勢が結構大事だったりしますよね。そういう自分を周りの人が見てくれているということが、どんな時にも意外にあるものだと思います。なので、学校でも自分が今やっていることに集中し、何事も今の自分にできる限りのことはやっていこうと取り組んでいました。
そうこうしているうちに、ある先生が私に目をつけてくれて、その先生が以前働いていた職場に話してみるから履歴書を送ってみたら?といわれて送ってみたところ、インターンシップのインタビューに呼んでもらえました。私自身銀行を退職するときの役職はいわゆる管理者だったんですが、スタッフの働きぶりをみて、“あー手を抜いてるなあ”とか、”表向きはやってるように見えるけど・・“とかわかちゃうんですよね。なので、きっと先生からみても生徒が真剣に取り組んでいるかどうかは見ていればわかるんだろうなと思います。そういう意味で、とりあえず今この時間、今やるべきことに全力を尽くすことが大切だと思います。
QLS:学校で学んだことは実際に今の仕事には役立っていますか。
尾崎:はい。現在は建築事務所で、いくつか平行してプロジェクトを進めていますが、その一つがダウンタウンの14階建てコンドミニアムの建設プロジェクトです。日々図面を書いたりして、全部学校で学んだことをそのまま使って仕事をしています。市の補助金が出る案件でハンデキャップのある方々も心地よく暮らしていけるように色々な工夫を凝らすわけですが、学校で学んだ技術的なことに更に磨きをかけて極めて行くといった感じです。学校でCAD(2D)とRevit(3D)の両方を学んだのですが、現在の職場ではそのどちらも必要なので大変役に立っています。
それから私が思ったのは、在学中のインターンシップ(スタージュ)が大事だということですね。どの世界でもよく人脈が大事といわれますが、特にこちらだとバックグラウンドがわからない人が沢山いるので、とりあえず一旦雇用主や同僚が様子見をする期間が必要なのだと思います。私の場合はインターンをさせてもらったところは人数が一杯だったのですぐには雇ってもらえなかったのでが、数か月後、まだ仕事が決まってないならインタビューするよと、元の上司から連絡がきました。インタビューでは既に私の仕事ぶりも人柄もわかっているので条件交渉のみで即採用になりました。ポジションに空きが出た時に頭の中にすぐに浮かべてもらえたのが良かったと思います。
QLS:やはりさっきの話に通じますがその時々で全力を尽くせばチャンスも巡ってくるということですね。職場の雰囲気はどうでしょうか。
尾崎:私の職場はケベコアがほとんどです。アメリカ人寄りというよりはもう少し日本人に近い感覚があるというか、あまりベラベラしゃべる人が好まれるわけでもなく、自己主張が強すぎるのもかえって評価されず、もちろん業界や職場によるとは思いますが、私の職場のようにいわゆる職人っぽい人が必要な職場では、ある程度真面目に正確に仕事をする人の方が評価されるように思います。また、何かを得るためにこれをやっているというような打算的にやっているのが見えてしまうと受け入れられないと思います。
QLS:日本人向きですね。ただ中にはケベコアは閉鎖的だとか、やはり英語圏がいいといってモントリオールを離れてしまう人も多いですが、その点はどうでしょうか。
尾崎:たぶんこちらのアプローチの方法だと思います。ご両親がアジア系の移民をよく思っていない家族の中で育った人の中には、そういう人もいると思います。ただ、自分はケベックが好きでフランス語を話したいし、もっと勉強したいということを前向きに伝えることが大切だと思います。こちらが消去法的にしかたなくケベックにいるという感じだと、あちらもじゃあケベックに居てくれなくていいよ、ということになると思います。なので、あまり控えめにもなりすぎず、ケベックのこういうところいいよね、とか、この前食べたプティーンが凄いカロリーだったとか、自分の中で会話のとりかかり(フッキング)をいくつか用意しておいくといいと思います。すると、たいがい相手は話好きなので、どこどこのプティーンが美味しいとか家でも作るとか、延々と話してくれるので、こっちは聞き役に回れます(笑)。
QLS:今後の仕事の見通しはどうですか。
尾崎:実は現在の職場の建築部門が徐々に縮小することが決まっているのですが、これから先は他の会社に行くか、現在の職場の建築士が散るのでその人たちについていくのか、あるいは、もう一度ファイナンスの業界に戻るかまだ決めてはいないです。今の業界もなかなか面白いし、文化的な側面も知ることができるし、また、仕事は忙しいときは忙しいですが割とフレキシブルに時間を組める(カスタマーサービス系のようにシフトがきっちり決まっているわけでない)のがいいですね。建築士から会社とは別に仕事を直接引き受けることもあります。
QLS:そうですか。では以前よりも選択肢が増えた感じですね。
尾崎:そうですね。私が以前やっていた仕事と大きく違うのは、以前の仕事は自分は何ができるかと聞かれると抽象的な文言しか挙げられなかったんですね。でも今やっていることは、いわゆる手に技術なので、今まで自分になかったものが一つ身につけられた安心感はあります。これから色々な状況の中で不安になっても、何があっても何とかやっていけるかなという自信はできました。
これからPEQを目指そうとしている方も、また現在学校に通っている方も学校には何かと不満があるかもしれないですし、大国や近隣国出身のクラスメートのことで不満があるかもしれませんが、そんなことは自分の人生には関係がないし、今やるべきことに集中して欲しいと思います。学校の先生たちも一生懸命準備してくれているし、意外とこの学校の教えることは卒業後に役に立つということを皆さんに伝えたいですね。
(インタビューを終えて)
インタビュー後の雑談で再びPEQのルール変更の話題になったのですが、“パニックになったときに、すぐに他人に投げかけるのではなく、一旦冷静になって、息継ぎができることも人間力の一つ”とおっしゃられた言葉はとても重く響きました。