カナダで活躍する日本人、第28回目はケベック州移民プログラム(PEQ)からカナダ永住権を取得した藤本奈津希さん (以下敬称略)をご紹介します。藤本さんは、モントリオールのVocational school在学中にフレンチベーカリーで仕事を得て、現在もベーカーとして活躍中です。将来は店舗を持たずにオンラインで注文を受けるホームベーカリーのビジネスを立ち上げることも検討中です。
QLS:まずカナダに来たきっかけを教えてください。
藤本:最初はオーストラリアにワーキングホリデーで行ったんですね。その時は、オーストラリアが気に入ってオーストラリアの永住権が取れればいいなと思ったんです。そのために、ワーホリが切れたあとも英語圏で何か仕事をしながら英語力を伸ばしたいと思っていたところ、年齢的にもカナダのワーキングホリデーが可能だったので、本当に軽い気持ちでカナダに行くことにしました。
バンクーバーに着いてすぐに仕事を探そうと思ったんですけど、何かちょとここじゃないなと思って、広域で仕事を探すことにしました。そうしたらたまたまイエローナイフの求人を見つけて、そこの条件が良かったのですぐに決めてしまいました。その後イエローナイフってどこだろうと地図をみたら結構北の方だなと(笑)初めてどこにあるのかを知りました。
そこは他に何もすることがなかったので(笑)、2,3の仕事を掛け持ちで9か月くらい働くうちに、結構カナダも住み心地がいいなと思い始めたんですね。人もすごく優しくてオーストラリアより外国人に対して寛容というか、仕事のチャンスも沢山あるなと思ったんです。
それでカナダの永住権について調べたら、当時最短で永住権が取れるというケベック州の移民プログラムをネットで見つけて、これならまあいけるかなみたいな軽い気持ちでエージェントを探しました。何件かコンタクトをとって一番信頼できそうなエージェントがQLSEEKERさんだったんです。決めたあと数か月後にはモントリオールに移動していました。
QLS:そうですか。結構決断が早いですね。
藤本:そうですね、悩むときは悩むんですけど、結構フィーリングで行けるかなと思って決めてしまうことも多いです。一旦決めると動くのは早い方だと思います。
QLS:その後はモントリオールのVocational schoolですけど、だいぶ期待したのと違ってがっかりしたとかはありましたか。
藤本:いえいえ、思ったよりも楽しかったです。皆移民目的で行くプログラムなので授業内容もそんなにかなと思ってたんですけど、情熱的な先生が多くて熱心に教えてくれるので楽しかったです。私はドラフティングのコースだったんですが、課題を集中的にこなしたりしている時間はとても充実していたと今でも思い出しますね。ただ、同時に取り組んでいたフランス語が結構負担でした。フランス語の宿題もあったので時間が足りなくなったりしました。
QLS:フランス語はどうやって勉強されましたか。
藤本:最初はコンコルディア大学の週一回のオーラルのコースを取ったんですが、まだしっかりした基礎がなかったので正直厳しかったです。それで途中から学校を切り替えてグラマーからしっかりやろうと思って、やり始めたらようやく何かつかめてきた感じでした。そこからカレッジのB2コースに通ってB2のCertificateをとりました。その間はフランス語の宿題が沢山出たのでVocationalスクールとの両立が本当に大変でした。
QLS:その頃からケベック州プログラムのルールが変わったりしていきなり難しくなりましたね。
藤本:はい、Vocational schoolのスタージュ(インターンシュップ)が始まった頃からCSQを申請したクラスメートがちらほら面接に呼ばれるようになって、私はちょうどB2のCertificateが取れるころだったので、このまま申請して本当に大丈夫かなと不安になりました。それでちょっと様子をみてたんですが、直感でやっぱり公式試験を受けてからの方がいいなと思い始めてそこからTEFAQの勉強を始めました。
フランス語の学校のクラスメートの中にはTEFAQは無理そうだからと移民申請を断念した人も結構いましたね。でも私とクラスメートのKさん(弊社のお客様)は何とか粘ってTEFAQに取り組んでいました。
QLS:なるほど、その後またケベックの移民法が変わってValueテストが導入されたりしましたが、それはどうでしたか。
藤本:私の方は4日間のコースをとって無事終了、主人もオンラインテストを受けて通りました。問題自体は全然難しくなかったです。
QLS:そうですか。Vocationalを卒業してからはずっとフレンチのベーカリーで働かれていましたが、これはどういうきっかけですか。
藤本:Vocationalに通い始めてからフランス語と英語を磨くために接客のアルバイトをしようと思っていました。当時住んでいた近所のベーカリーがたまたま募集していたんですね。それで採用面接で今フランス語を勉強中なのでなんとか雇って欲しいとプッシュして、最初はちょっと無理そうだったんですが、最終的には採用になってまずは週に数回キャッシャーとして働かせてもらうことになりました。それをVocationalが終わるまで続けて、Vocationalが終わったあと数か月日本に戻りました。
それで次にモントリオールに戻ったら何をしようかと考えていたら、たまたまその働いていたベーカリーのクロワッサンが凄く好きだったので、ちょっとパン作りを学んでみようかなと思い、日本からオーナーに連絡して、パン作りのスキルを学べないかと打診したんですね。そうしたら未経験者であることはわかってるけど、やりたいという気持ちが大事だからやってみたらと受けてもらえました。
それでモントリオールに戻ってきてからベーカーの見習いという形で仕事を教えてもらいました。オーナー(ベーカー)とオーナーの弟(パティシエ)ともう一人のフランス人の共同経営者(パティシエ)が交代で熱心に教えてくれました。
QLS:職場はフランス語環境だったんですね。
藤本:そうですね。職場はフランス人とケベコワが多いので、環境的にはバイリンガルという感じでした。英語とフランス語の両方でコミュニケーションをとりながら、私がフランス語で理解できないと途中で自然と英語に切り替わっていたり、今でも英語とフランス語が入り混じった会話をしています。
QLS:フレンチのベーカリーで働いてみた感想はいかがですか。
藤本:そうですね。お店が忙しいので毎日あっという間に過ぎる感じです。まず前日に仕込んだパンやバゲット、クロワッサンを焼いて、その後翌日の仕込みをします。クロワッサンも一日千個くらい作るんですけど、生地をミキサーで作ってその後バターを織り込む作業があるんですね。平べったくして層を作っていくんですけど、私が機械を操作してその層を作っていきます。その後分割して一つの生地から大体70から80のクロワッサンを作ります。その作業を毎日13回繰り返します。なので、この数年でお店の中では私が一番早くクロワッサン巻けます(笑)。
でもオーブンに入れて仕上がるまでは結構ドキドキですね。同じレシピで作っていても、微妙な気温の差とか湿度の差で変わってきます。バゲットが特にそうなんですけど、二次発酵の時間を少しオーバーしただけでうまく行かないことがあります。本当にその時々のコンディションに合わせて生地をタッチして感覚で判断する必要があります。オーナーからは10年やってやっとパンのことがわかってくると言われています。本当に奥が深いです。毎日同じことをやるんですが、イースト菌も生き物なので毎回気をつけていないとクオリティーが維持できないんです。
あと生活パターンががらっとかわりました。こちらのベーカリーは夜のうちに仕込んで焼いてというのが一般的なんですけど、それだとプライベートな生活が全くなくなってしまうので、オーナーの方針で朝は4時から仕込みを開始して大体昼過ぎには終わるパターンです。それでも毎日夜7時くらいにはベットに入る生活なので、たまに休みの日に飲みにいったりしても9時過ぎには眠くて起きていられなくなります(笑)。
QLS:これからもパン作りを続ける予定ですか。
藤本:そうですね。パン作りは楽しいんですが、毎日重いものを持つので腰にくるのと、パンを作るときも腕や肩を酷使するので結構体に負担がかかるんですね。今後は多少スローダウンするかもしれません。でも、他のこともやりながらパン作りも続けたいですね。当初はB&Bを経営して手作りのパンをだしたりとかもいいなと思ったんですが、今は作ったものをオンラインで販売するのもいいかなと思っています。
店舗をかまえずにこじんまりとオーダーを受けてオーダーを受けたものだけを作るとロスもないですし家賃も払わなくて済みます。コロナが始まってから実際うちのお店もウーバーイーツのオーダ―が結構入ります。最近はプロモーションはインスタグラムやフェイスブックだけというところも多いので、今の時代にあったビジネスをやっていければと思っています。
QLS:なるほど、それはいいアイディアですね。
藤本:それとVocational schoolで学んだドラフティングが楽しかったので今後それを使って何かできればいいなと思っています。主人がコンストラクションの方をやっているので、そのコネクションを使って私が家でドラフティングをやってとか、何らかの形で生かせればと思っています。
QLS:これからもずっとモントリオールに住む予定ですか。
藤本:そうですね、特に州をまたいで引っ越す予定はないです。この街は色々な人種が混ざっていて、色々な言語が飛び交って面白いですし、都会なので日本の物も手に入るので不満はないですね。
QLS:最後にQLSEEKERのサポートについて一言お願いできますか。
藤本:そうですね、ここ数年移民の条件がコロコロ変わりましたけど、その都度上原さんや亀谷さんから確実で専門的なアドバイスを頂けたのは心強かったです。本当に、え、また?ということが多くて、そういうときはまず連絡しようという感じでした。そうするとこうした方が良いとか、こういうこともありますよとか、こういう方もいましたよとか、色んなケースや自分に合った選択肢をすぐに聞けるのは良かったです。自分でインターネットで調べても全部が全部当てはまることはないので、じゃあ自分のケースはどうなんだろうという時にすぐに確認できたのは良かったですね。
QLS:ありがとうございます。やっとこれで一息ですね。長かったですね。ご主人もほっとされていますか。
藤本:そうですね。私がフランス語で苦戦しているときもいつも“大丈夫、大丈夫“と勇気づけてくれたり心の支えになりました。私一人でやっていたら途中で断念していたかもしれません。永住権が取れたという連絡があった日は、一緒にお寿司を食べに行きました。
<インタビューを終えて>
移民取得まで時間がかかりましたが、藤本さんの場合はその時間を無駄にすることなく、フランス語と英語、ドラフティング、パン作りと、ケベック州で生活していくためのいくつものスキルを身に着けて、まさにケベック州のPEQプログラムの意図を体現されたという印象を持ちました。今後のご活躍を願っています。