カナダで活躍する日本人、第7回目はケベックスキルワーカークラス(QSW)から永住権を取得し、現在モントリオールで看護師として働く坂本美穂さん(以下敬称略) をご紹介します。
QLS : お久しぶりです。早速ですが、ケベック州で看護師を目指そうと考えられたいきさつから教えてください。
坂本 : 日本で看護師として5年ほど働いていたのですが、もともと外国語を習うことも好きだったので、いつか海外で働きたいなと思っていました。日本人で既にケベックで看護師として働いていた友人から、ケベック州は外国人看護師を受け入れるプログラムがあるというのを聞いて興味を持ったのがきっかけです。また、私の場合は大学4年間とフランスで1年間フランス語を習っていたので、フランス語圏への移住には抵抗がありませんでした。
QLS : 移民申請から看護師資格取得までの経緯についてはいかがだったでしょうか。
まずケベックの看護協会に申請書を出して、ケベック州で看護師になるには移民になることが必須だったので、それと同時に移民の申請もしました。移民申請の手続きは、自分自身で行うのは難しいと感じ、上原さんにお願いしました。既に看護師としての職業経験があったこと、フランス語が話せたこと、適切な書類を作成して頂いたことなどにより、インタビューに呼ばれることもなくスムーズに取得できました。
ケベックの看護協会への申請の方は、日本の看護免許の審査をしてもらうのに約1年かかりました。審査後、ケベックの看護協会からケベックで外国人看護師のためのプログラムに入るように通知されました。
QLS : プログラムの内容はどうようなものでしたか。
坂本 : ケベック州の看護レベルに合わせるために、外国人はまずこのトレーニングプログラムを修了する必要があります。国によってまちまちですが、日本、フィリピン、中国などアジア圏からの移民の場合は大体皆8カ月から1年くらいこのトレーニングを受けることになります。
外国人看護師のためのプログラムはケベック州に6校あって、約4カ月の講義と4カ月の病院実習があります。ケベック州は外国人看護師を多く受け入れる割には学校が6校しかなく、一回に受け入れる生徒数が10~20人と少ないため、このプログラムに入るのもかなりの競争率でした。試験内容は、面接、筆記試験、フランス語力と看護知識、特に病院で起こりそうな状況(例えば、胸部痛を訴える患者の対応、低血糖状態にある患者の対応など)についての質問でした。一回目に受けた学校には不合格でしたが、2校目に合格し、プログラムを開始しました。
プログラムは6校のうち、1校のみ英語で授業が行われ、あとの5校はフランス語で行われます。私はフランス語圏のプログラムに入ったので、講義や実習すべてフランス語でした。約4カ月の講義は毎週のように試験(筆記か実技)かレポート提出がありました。日本と違い、毎回成績が60点に達しないとすぐにプログラムを辞めさせられるという過酷なプログラムでしたが、クラスメートとよく集まって支えあい乗り切りました。講義の目的は、ケベック流の看護を学ぶことで、病気は世界共通でも、看護(例えば低血糖の対応など)が日本とは違うことがあり、最初は戸惑いましたが、違いを理解するのが大切でした。
4カ月の講義を合格すると、5~6人のグループで病院実習をしました。実習担当の教師が生徒を評価します。ここでは、ケベックの病院で、順応できるかどうか判断されました。プログラムは厳しく、最終的には生徒の半数が辞めさせられました。日本よりもケベック州は看護師自身が判断する場面や任される仕事の責任が大きく、プロフェッショナルであろうとする意識が強いので、プログラムも自然と厳しいものだったのだと思います。
プログラムを終了すると、看護師の監督下で実習生として働ける資格がもらえます。色々な病院の面接を受け、面接では、病院で起こりそうな色々な場面の例題が出され、看護師としての状況判断を試されました。フランス語のプログラムを卒業したのですが、モントリオール市内の英語圏の病院の面接も受け、そこで働くことになりました。
その後、看護師試験に合格して看護師になり、英語圏の病院でフランス語と英語を使って働いています。
QLS : やはり海外でプロフェッショナルな職業に就くというのは並大抵のことではないですね。では実際にケベックで看護師として働いてみた感想はいかがですか。
坂本 : 現在、モントリオール市内のJewish general hospitalのリハビリ病棟で働いています。看護師はカナダ人、中国人、アルジェリア人、イタリア人など多くの国から来ています。患者さんも国籍は様々です。一日に5~6人の患者さんを受持ちます。日本とケベックで看護師として働いてきて、それぞれプラス面とマイナス面がありどちらが良いとは言えません。ただ、患者さんへの看護をしていることには変わりませんが、注射の仕方ひとつとっても違うように、色々な場面で看護方法の違いを感じます。これまでのやり方に固執しすぎないように柔軟に対応するように心がけています。
また、日本ではチームで働くという感覚が強かったのですが、こちらは個人個人で働きます。看護師同志の話し合い、カンファレンスはありません。知識と判断力を持ったプロとしての看護師が働いているから、話し合いをする必要はないという感じです。幼い頃からチームワークを重視する文化の中で育ってきた私にとっては、これに慣れるのは結構大変でした。そういう意味ではアジア系の看護師とは価値観が似ているので一緒に働きやすいです。いずれにしても看護師一人一人の責任は日本より重く感じますが、私が立てた看護計画や判断は尊重されるので、やりがいはあります。
QLS : カナダは看護師の社会的地位が高いと聞きますが、その点はどう感じられますか。
坂本 : 日本ではプロフェッショナルというよりは、患者さんのお世話をする仕事という感覚が強かったのですが、こちらでは何かあるとまず看護師が対応し、医師と同様に処方や診断もします。日本では通常医師が判断するレベルのことを看護師が行うのは大きな違いだと思います。そういった理由から日本で学んだ知識や経験では不足するので先ほど言ったような追加のトレーニングが必要になるのだと思います。
QLS : 就労条件や待遇はどうですか。
坂本 : こちらは労働条件が日本よりも整備されていて、看護師が患者さんの診断に専念して休暇をしっかりととれるように、看護人員や介護人員が配置されています。具体的にいうと、日本のようなサービス残業は一切なく、現在1日の勤務時間は日勤の場合午前7:30から午後3:30までと決まっていてそれ以上働くことはまずありません。また、週5日働くと年間で4-6週間のバカンスがもらえます。日本では年間1週間ほどしか休暇がもらえず、長時間労働で疲れてうつ病になる看護師を多く見てきましたが、こちらは仕事と生活のバランスがとれているので、その点ではとても恵まれていると思います。給料については相応に高いのでパートタイムで週3,4日ほど働けば生活できてしまうほどです。
QLS : では最後にこれからケベックで看護師を目指す方へメッセージをお願いします。
坂本 : ケベック州は英語とフランス語が公用語で、色々な国の人がいて、海外でいろいろな国の人と働きたいと思う方にはお勧めです。また、こちらの看護免許は、カナダの他の州やヨーロッパ(フランスやスイスなど)でもそのまま使えるので、世界も広がると思います。日本で看護師としての経験が長く、英語、フランス語がどちらもできると就職も有利になるので是非チャレンジしてもらいたいと思います。
QLS : 実際に経験をされた方からのお話はとても説得力があります。本日はお忙しいところ本当にありがとうございました。