1971年にリリースされたジョンレノンのImagineが帰宅途中の車のラジオから流れてきた。
Imagine there’s no countries It isn’t hard to do Nothing to kill or die for And no religion, too
Imagine all the people living life in peace…
You may say I’m a dreamer But I’m not the only one I hope someday you’ll join us And the world will be as one
ベトナム戦争を批判して、国境のない、宗教もない、争いが消えた平和な世界が、いつか必ずやってくると信じる思いを伝えようとしたこの曲がリリースされてから、もう45年が経ってしまったことを痛感させる瞬間があった。
環境問題活動家として知られるブリティッシュコロンビア大学名誉教授David Suzukiが、地球温暖化を止めることはもう不可能だとコメントする。
7月には、イギリスがEU離脱を選択した。
そして、米大統領選では、共和党候補Donald Trumpが、型破りの政治家ぶりで日々メディアを賑わしている。
そんな混乱にさらに油を注ぐように、相変わらずISISは世界各地で隙があれば、テロ活動に力を注ぎ、アメリカ国内の人種間での闘争は以前よりも頻繁にニュース番組を賑わすようになった。
今年に入ってカナダでも、日本出張中も、ほぼ24時間いつでもどこにいても時間があればSlingplayerでCNNにチャンネルを合わせてしまう自分がいた。
爆弾発言をするたびに人気が増して行くDonald Trumpの高飛車な態度に不思議と心地よさを感じながら、時差ボケで横になってしまう時でさえも、なぜかイヤホンは耳についたまま、オーディオから離れられない状態が普通になったていた。自分の生活には直接的には関係ないはずのこの米大統領選の行方が、エンディングが気になる映画を観ているかのようになぜか目が離せなかった。
昨年6月に米大統領選への出馬表明後、数々の暴言を吐きながら、メディアのおもちゃにされ、Saturday Night Liveの格好のネタにされながらも、世間の大方の予想を覆して、米大統領共和党予備選挙で事実上16人もの共和党候補を敗退させ、米大統領選挙における共和党候補指名を獲得したDonald Trump。間違いなくこの前代未聞の現象に、メディアや民主党支持者だけでなく、当の共和党全体が困惑の思いを隠せずにいたはずだ。
7月18日(月)の週に開かれた共和党のNational Convention、そして、その翌週に続いた民主党のNational Conventionとまるで人気のショーイベントを観覧するかのような雰囲気の中で、両党ともに完璧ともいえるプレゼンテーションを披露した。言葉の端々にアメリカは世界で一番と自画自賛する態度に、嫌悪感を覚える瞬間が少なからずあったにしても、これだけ多くの国民が政治に強い興味を持って、公に支持批判できる環境を作り出しているアメリカの強さを見せつけられた気がした。
9月26日(月)に行われたディベートも勿論、ホテルをいつもより遅くチェックアウトしてまでも、しっかり最後まで見ずにはいられなかった。なんでこんなおじいさんとおばあさんの討論会を夢中になって見入ってしまうのかとちょっと情けなさを感じながらも、CNNから目が離せなかった。
そして米大統領選挙を約一か月後に控えた10月7日(金)、Donald Traumpを”これでもかと”蹴落とそうとするビデオがメディアを通して流れた。水面下での醜い政治闘争を感じさせるこのビデオのリークにはちょっと許せいない気がした。
世間は完璧な人間などいないと口にしながら、なぜ政治家には完璧を求めるのか。いやなぜ完璧のふりをする政治家を支持するのか。Politically Correctという価値観がここまで結果を出さない状況が続いていも、もしかしたら、その価値観自体に誤りがあると人々は怖くて口にすることもできないでいる。少なくともDonald Trumpは、時にはPolitically Incorrectという価値観が社会には必要なことを国民に訴えようとしている。
まして人間は誰もが必ず光と影の部分を持ち合わせる。個人的にDonald Trumpを支持しているわけではないにしても、Donald Trumpの持つ光の部分は正当に評価されるべきだ。
10月9日(日)のタウンホール形式で行われた2度目のディベートの直後のポールの数字ではやはり、例の女性を卑下した発言が含まれたビデオリークの影響かDonald Trumpの支持率が落ち込んだ。
そしてここまでタイミングよくこんなスキャンダルが表面化するものなのかと思わせるように、Donald Trumpから性的に不適切な行為を強いられたという女性が声を上げ始めている。
それにしても、CNNに毎日のように顔を出すキャスターだけでなく、両党の支持者の言い合いが続く中で、民主党支持者だけでなく、メディア全体がDonald Trumpを支持しない態度を露骨に前面に出しているのには違和感を感じる。Donald Trumpがどんなに爆弾発言をしようとメディア自体は、基本的に中立の立場をとって、両党のコメントをバイアスなしで伝えるのが彼らの役目ではないのか。
いずれにしても、Donald Trumpを蹴落とそうとする前に、なぜ彼が16人の共和党候補者全員を押しのけて、大統領選の共和党候補に選ばれたかについて、もっと掘り下げて分析するべきではないのか。
予備選挙戦の途中でメディが流したビデオの中でDonald Trumpからのコメントの中に国民からの強い怒りを感じるという一言があったのを思い出す。
明らかに中産階級以下のデモグラフィックに政府に対する怒りが充満しているように思えてしょうがない。どんなにアメリカが自分たちは世界No.1の先進国だと自画自賛しても、結局は他の先進諸国同様に格差社会の問題にアドレスできないでいる。
それどころか、米大統領と言っても、所詮一人のリーダーを選んでいるに過ぎず、別に一人の人間が世界を変えられるわけではないはずだ。変革を実現するのは国民一人一人の力のはずだ。
まして、Donald Trumpの台頭が示唆する中産階級以下の不満と怒りに目を向けることもせず、メディアを含め、どう考えてもエリート集団しか思えないテレビのフロントに出てきている人達が、絶え間なくDonald Trumpの言動を批判しても、中産階級以下の人々がそれに同感できるとでも思っているのだろうか。
全人口の半数近くを占める中産階級以下の人達がどうしていいかわからず、わらにもすがる思いで、結果を出さない現行政府の政策を糾弾するDonald Trumpを大統領にして社会をリセットできたらと願う気持ちになぜもっと目を向けようとしないのか。
Brexitが起こった理由もまさに同じところにあったはずだ。
The lesser of two evilsなどと批判するのであれば、例えば、ディベートの代わりに選挙戦の間、インターネットを使って月に一度、景気回復に向けての対策、ヘルスケアへの対策等、ただ単にウェブサイトに政策の内容を掲げるのではなく、実際に国民に向けてプレゼンテーションをすることだって、今のデジタル社会なら可能なはずだ。もっと具体的なプランを公の場で国民全体に向けて候補者自身が説明することで、投票する側に安心感を与えられれば、The lesser of two evilsなどという悲観的なコメントするMillennialsも減るような気がする。
いずれにしても、間違いなく言えるのは、高所得者と低所得者の所得差を限りなくゼロに近づけるような極端な政策を打ち出せいない限り、誰が大統領に選ばれても、結局は、私腹を肥やし続ける上流階級が存続し、ほんの気持ちばかりの是正処置に中産階級以下の人々は少しは良くなったと納得して、4年後また同様のThe lesser of two evils状態になるのはすでに目に見えている気がする。
どんなに将来を楽観視しようとしても、残念ながら世界はますますその病巣を広げ、争いは、伝染病が世界を侵食するかのように刻々とアポカリプスに向かう形相を呈している気がしてならない。
アメリカ大統領選が見せる格差社会の現実、臨界点を越えてしまったように思える地球温暖化、イギリスEU離脱、終焉が見えないISISによるテロ行為やアメリカの人種間の闘争、45年前にジョンレノンが願った平和な世界なんて本当にいつか訪れるのだろうかと思わせる1年がまた過ぎようとしている。